TPH3205WSBとTPH3205WSBQAの比較

車載用のGaN MOSFETしてTPH3205WSBQAがリリースされていますが、

TPH3205WSBとの比較で気が付いたことをまとめておきます。

 

 

オン抵抗(Rds(on))は、QAでは49mΩと3mΩ下がっていますが、

AB級オーディオアンプではあまり影響しません。

一方、伝達特性の温度係数をみると、

ZTCは4V, 60Aとなって、元の3V, 25Aよりも、

傾きが60/(4-2.1)=31.6Sとなって25/(3-2.1)=27.8Sからやや増えていますが、

150℃, 3V, 20Aで20/(3-2.1)=22.2Sと立ち上がりはやや押さえられています。

 

出力容量(Coss)は、135pFと20pF増えていますが、

Vds=50V, 100Vの値は、400pF, 300pFと100pF下がっています。

帰還容量(Crss)は、23pFと全体的に4pF増えています。

 

ターンオン時間(td(on)+tr)とターンオフ時間(td(off)+tf)は、43.6(36+7.6)ns, 48.6(49+8.6)nsとなって、

元の29.5(22+7.5)ns, 37.5(33+4.5)nsに比べて、ばらつきが減っています。

 

逆電圧(Vsd)の最大値は変わらず2.1Vですが、逆回復時間(trr)が40nsと10ns増えていて、

これはターンオフ時間に見合った値になっています。

 

以上の考察から結論として、オーディオパワーアンプ用途には、

TPH3205WSBQAの方が、熱安定性が高く、ミラー容量が少なく、貫通電流が少なくなる点で、

TPH3205WSBよりも適していると考えられます。

 

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ドライバ回路の入力容量に対する最適化

LT1166のデータシートから引用します。

100Wオーディオ・パワー・アンプ

U3の役割は、M1とM2のゲートをドライブ
することです。このアンプの実際の出力は、一見したと
ころ考えられる点Cではなく電源ピンです。R6を流れる
電流を使用して電源電流を変調し、VTOPおよび
VBOTTOMをドライブします。U3の出力インピーダンス
(電源ピンを通した)は非常に高いため、20kHzでの歪み
を非常に低く抑えるのに必要な速度と精度でM1および
M2の容量性入力をドライブすることはできません。U2
の目的は、低出力インピーダンスを通して、M1および
M2のゲート容量をドライブし、M1およびM2の相互コ
ンダクタンスの非直線性を低減することです。R24とC4
は、U2がU3とU4を管理しなくなるが、利得が1になる
と自身を管理するような周波数よりも高い周波数を設定
します。R1/R2とC2/C3はCMRRフィードスルーに対す
る補償部品です。

シャント・レギュレータのドライブ


入力相互コンダクタンス段をドライブせずに、シャン
ト・レギュレータを直接電流ドライブすることができま
す。この方法には速度が向上する利点があり、gm段を
補償する必要がなくなります。ピン2をフロートさせる
と、LT1166を帰還ループの内側に置き、バイアス電流
源を通してドライブすることができます。入力相互コン
ダクタンス段はバイアスされたままで、回路動作に影響
を与えることはありません。図7のRLを使用すれば、入
力信号でオペアンプの電源電流を変調することができま
す。このオペアンプは、電源リードを電流源出力とする
V/Iコンバータとして機能します。負荷抵抗とオペアン
プの正入力は、LT1166の出力に接続され、AV=1V/Vと
するために帰還されます。コンデンサCFはITOPと
IBOTTOM間の不整合による出力VOSをなくし、DCにポー
ルを形成し、1/RFCFにゼロを形成します。MOSFETの位
相がループの安定性を低下させる前に、オペアンプの利
得が-1V/Vとなるようにゼロ周波数を選択します。

これらの内、C2/C3はM1およびM2の入力容量に関連しているようです。

また、R5/C5はシャント・レギュレータのドライブのRF/CFに相当しますが、

これもM1およびM2の入力容量に起因するピークを抑えることに関連しているようです。

TPH3205WSBの入力容量(Ciss)は2200pFなので、

C2/C3 = 2200pF/2200pF

R5/C5 = 4.7k/4700pF

にするとよいようです。

 

GaN MOSFETアンプの性能

LT1166のデータシート Figure7. Current Source Driveの、

currentsourcedrive_bipolarbufferamp
RIN, RL, RF, CFのGaN MOSFETアンプにおける
最適値を探したところ、
RIN=2.4kΩ, RL=150Ω, RF=0Ω, CF=100pFとなりました。

具体的には、I/V変換をしているオペアンプ(U3: LT1360)の

電源ピン電流のゲインと位相が

できるだけなだらかになるようにすることがポイントのようです。

オペアンプの出力(C点)の位相余裕とゲイン余裕を大きくすることと、

THD-20を小さくすることを目標にすると、

電流変調の位相とゲインがピークやディップを持ってもわかりにくいようです。

 

これまでの結果として、
GaN MOSFETアンプのシミュレーション上の
特性値を上げておきます。

周波数特性:10-55kHz(-3dB)
歪率(THD-20, 入力:2Vpp, 20kHz正弦波):
8Ω,  55W, 0.002243%
4Ω, 110W, 0.004343%
2Ω, 219W, 0.006039%

最低インピーダンスが3Ωになるようなスピーカーでも、
余裕を持って鳴らせる値になっています。

(※実際の周波数特性はDCが下限。

実際の最大出力はTPH3205WSBのPD=125Wが上限。)

 

歪率自体もLT1166のデータシート
Figure 19. 100W Audio Amplifier

100waudioamplifier

(U2: LT1363のピン番号2, 3が入れ違っているので注意して下さい)
ドライバ段のないIRF530, IRF9530による
純コンプリメンタリの構成(0.005084%)よりも、

BJTによるドライバ段(2SC4883A, 2SA1859A)

(LT1166データシート Figure 8. Bipolar Buffer Ampを参照)と

GaN MOSFET(TPH3205WSB)による

準コンプリメンタリのパワー段による構成(0.002243%)

の方がよい値になっています。

 

設計目標は十分、達成しているので、試作に入りたいと思います。

 

SiC MOSFETアンプとGaN MOSFETアンプの比較

なぜGaN MOSFETアンプなのか?

新しいデバイスだから。
特性がよいから。

というのが主な設計上の動機になっていますが、

実際のところどうなのか

データシートの値とシミュレーションによるTHDで比較してみました。

 

SiC MOSFETとして、C3M0065090D、
GaN MOSFETとして、TPH3205WSBを選択し、
パワー段のMOSFET以外は同じ回路でシミュレーションしています。

 

まず、データシートからオーディオパワーアンプの特性に関連するパラメータを抜き出してみます。

C3M0065090D:
Vds 900V, Id 36A, Rds(on) 65mΩ, Qg 30.4nC, Ciss 660pF, Td(on) 35ns, Td(off) 23ns

TPH3205WSB:
Vds 650V, Id 34.7A, Rds(on) 63mΩ, Qg 28nC, Ciss 2200pF, Td(on) 22ns, Td(off) 33ns

 

Ciss以外の値はほぼ互角です。

実際の設計ではGate ZobelでダンプしてCissの影響を低減しています。

 

次にシミュレーションによるTHD-20(1V, 20KHz Sine Wave)を示します。

C3M0065090D:

THD-20 0.034245%

TPH3205WSB:

THD-20 0.005785%

 

GaN MOSFETの全高調波歪率(THD-20)は、 SiC MOSFETのおよそ1/6となっています。

 

これはGaN MOSFETのトランスコンダクタンスの立ち上がりが、

SiC MOSFETよりも圧倒的に大きいことに起因するようです。

 

これまで、MOSFETアンプはBJTアンプに比べて、

トランスコンダクタンスの立ち上がりの遅さ(Transconductance Droop)による

クロスオーバ歪み(Crossover Distortion)がデメリットとされてきましたが、

GaN MOSFETアンプには当てはまらないようです。

 

GaN MOSFETアンプの基板設計

GaN MOSFET TPH3205WSをパワー段にした

LT1166とBJTドライバによる準コンプリメンタリの基板を設計してみました。

ganamp_brd

ポイントは、
バイアス電流と電流制限の検出抵抗を6つの5Wのセメント抵抗で構成したこと、
エミッタディジェネレーション、ベースストッパー、ゲートストッパーの各抵抗の配置、
メイテンロック・コネクターの配置、
ドライバBJTとパワーMOSFETの配置にあります。

3端子レギュレータ、ドライバBJT、パワーMOSFETはヒートシンクに固定します。

GaN MOSFETはTO-247パッケージのTPH3205WSBで、
足の配置はGSDになっています。

10W, 1Ωのセメント抵抗はサイズが大きすぎるので
5W, 0.47Ωのセメント抵抗を2個直列にしています。

パワー段のグランドの影響を分離するためにスリットを入れてあります。

PCBトランスとアイソレータの空芯コイルの下も
インダクタンスの影響を避けるためにパターンを抜いてあります。

GaN MOSFETアンプの設計

TransphormのGaN MOSFETがDigikeyですでに発売されているので、
アンプの回路をシミュレーションしてみました。

データシートより:

TPH3205WSB
650V Cascode GaN FET in TO-247 (source tab)

The TPH3205WSB 650V, 52mΩ gallium nitride (GaN) FET is a normally-off device.

Transphorm GaN FETs offer better efficiency through lower gate charge,

faster switching speeds, and smaller reverse recovery charge,

delivering significant advantages over traditional silicon (Si) devices.

 

まず、ピン配置が通常のGDSではなくGSDとなっているので、
基板は専用のモノを起こした方がよさそうです。

次に問題になるのが、
ゲートスレッショルド電圧で、

これまた通常の2-4Vよりも低い1.6-2.6Vとなっています。

さらに、入力容量が2200pFもあります。

というわけで、いろいろシミュレーションしてみたところ、
いくつか対策が必要なことがわかりました。

ganampasc

 

まず、ゲートスレッショルド電圧に関連していると思われますが、
ほとんどバイアス電流を流せません(16mA程度)。

なので、LT1166の電流検出抵抗を1Ω以上にする必要で、1Ω10Wの抵抗を追加して、

1Ωと0.22Ωで電流制限とバイアス電流の検出を個別に設定する必要があるようです。

 

次に、入力容量が大きいため、

ドライバ段のBJTにも100Ωのベースストッパーを追加しないと発振が止まりません。

 

という感じでかなり手強いですが、なんとか音は聴けそうです。

ganamp20kpulseresponse

 

TO-220のTPH3206PSは、

オン抵抗180mΩで入力容量が760pFなので、

こちらの方が扱いやすいかもしれません。