D級アンプの原理:回路と電源の考察

D級アンプの原理に関して、回路と電源に関する考察をまとめておきます。

 

日本語のまとまった参考資料としては、以下のものをあげておきます。

トランジスタ技術2008年3月号 特集:高効率パワー・アンプの作り方

トランジスタ技術2003年8月号 特集:ディジタル・アンプ誕生

グリーンエレクトロニクス No.7 D級パワー・アンプの回路設計

グリーンエレクトロニクス No.1 高効率・低雑音の電源回路設計

 

まず、ここでは増幅方式の原理として、

D級アンプをオーディオ信号で出力素子のデューティサイクルを

PWM制御するスイッチング方式のアンプと定義します。

 

また、比較のために、
AB級アンプは、オーディオ信号で出力素子のトランスコンダクタンスを

線形制御する方式のアンプと定義します。

なので、ここでのD級アンプは、

スイッチングノードの電圧に関しては2値もしくは3値ですが、

デューティサイクルに関しては連続なPWMを仮定しているので、

分類としてはアナログアンプ(連続時間の増幅器)です。

一般的には、

オーディオ入力信号をサンプリングしてPWM信号を生成してスイッチングノードを制御し、

スイッチングノードの離散電圧をLPFで復調して連続電圧を取り出します。

 

この点に関しては、

AB級アンプは、

連続時間かつ連続電圧のアナログアンプです。

入力から出力まで一貫してアナログ制御の構成が一般的です。

 

次に、D級アンプのサンプリングに関連して、

自励発振式と他励発振式の比較がよくされています。

 

これに関しては、実際に制作してみるとわかりますが、

他励発振式はPSRRが原理的には0dBなので、

通常のコンデンサインプット式の電源では、

100Hz/120Hzの商用電源の整流リップルノイズが

そのまま聞こえます。

なので、オーディオアンプとしては、

電源に対策を施さないと、

そのままでは実用になりません。

 

一方で、自励発振式はPSRRに優れているため、

電源を選びませんが、

サンプリング周期が信号振幅に応じて変動するのと、

電源のパンピング現象が短所とされています。

 

これも実際に制作してみたところ、

自励発振式におけるサンプリング周期の変動は、

無信号時に1MHzを超えるレベルの回路が容易に達成できて、

ノイズシェーピングを適用できるので、

実質的な音質への影響は限定的です。

 

電源のパンピング現象は、

他励式と同様に電源で対策を行うか、

フルブリッジ構成にするのが一般的ですが、

フルブリッジ構成にすると、

他励式(外部クロックとの同期を含む)となってしまうため、

元の木阿弥です。

 

従って、D級アンプでは、

増幅器と電源を一体のものとして設計する必要があります。

 

増幅器のフィードバック制御としては、

電流モードの構成をとれば、

LPFの変動も制御できるため、

設計次第です。

 

また、電源の対策としては、

リニア電源にレギュレータを導入するか、

電源自体をフルブリッジ構成にするのが一般的のようです。

 

一方で、

最近は同期整流(ダイオード整流と違い、回生電流を逆流できる)が

容易に構成できるので、

スイッチング電源で対応する方が容易と思われます。

 

ただし、

オーディオアンプは連続での定格出力は実使用時には発生しないので、

設計のポイントは大きく異なります。

クレストファクタを考慮したトランスの巻き線設計、

アクティブクランプもしくはフェーズシフトフルブリッジ(PSFB)によるZVS、

軽負荷モード(パルススキッピング)による安定性の確保、

などが重要になってきます。

 

というわけで、これまでの設計や試作を踏まえると、

自励発振式とスイッチング電源で適切なD級アンプの設計というのが、

音質とコストパフォーマンスも含めて妥当という結論です。

 

3レベルPWM D級アンプのPSRR改善その2

3レベルPWMD級アンプのPSRRを向上するために、

搬送波に電源変動のフィードバックをかける方法を

こちらの回路でその後いくつか試した結果、

このような搬送波生成回路への電源変動フィードバック回路にたどり着きました。

回路のトポロジーとしては、

シュミットトリガ回路の矩形波から三角波を生成している積分器に、

3レベルPWMの出力(BTLスイッチングノード差動出力)と、

電源レールの中点電位(電源レールの対称的な変動を相殺した後の残差)を

フィードバックする形をとります。

 

つぎに、過渡解析の結果を示します。

緑が3レベルPWMのフィードバック(PSA)、

青が電源レールの中点電位のフィードバック(PSB)、

赤がフィードバックを受けた三角波(TW)です。

 

意味合いとしては、電源レールの電圧変動の振幅と中心を

フィードバックしていることになります。

 

これで、正弦波の入力振幅電圧によりますが、

LTSpiceのシミュレーションでは、

3レベルPWMアンプの出力のTHD20が

0.1V正弦波入力時で0.18%から0.13%、

1.5V正弦波入力時で0.34%から0.27%にそれぞれ下がります。

 

2回路のオペアンプが追加で必要になりますが、

PSRRが重要で電源の安定化ができない、もしくは、

したくない場合には、

有効なアプローチだと思われます。

 

3レベルPWM D級アンプのPSRR改善

過去記事の

3レベルPWM D級アンプの回路設計

に対して、

他励式BTL D級アンプのPSRRを向上してゲイン歪みを低減するために、

電源レールの電圧を変調器にフィードバックするとどうなるか?

という興味深いコメントをいただいたので、

いろいろ調べてみました。

 

Bob CordellのDesigning Audio Power Amplifiersの第1版(すでに第2版がでていますが)の

Part 6 Class D Amplifiers

29 Class D Design Issues

29.4 Power Supply Rejection

P. 576 Power Supply Feedback to the Triangle Generator

にもこのアプローチは簡単に触れられています。

 

また、D級アンプの基礎的な理解のために以下の記事も参考にしています。

トランジスタ技術 2003年8月号 p.179-186, 第6章 ディジタル・アンプ用電源回路の設計

トランジスタ技術 2008年3月号 p.113-119, 第2章 アナログ信号をH/L信号に変換する「PWM」

D級パワー・アンプの回路設計 p.37-50, 第5章 デッド・タイムと高調波ひずみとPSRR

 

さて、まずはLTspiceの回路図です。

3-Level PWM D級BTLアンプの三角波生成回路(変調器)

(LT1358によるシュミットトリガ回路と積分回路による非安定マルチバイブレータ)に対して、

正負電源レールからの電圧を加算回路でシュミットトリガ回路にフィードバックをかけています。

 

1.5V 20kHz 正弦波入力時の過渡解析のシミュレーション結果です。

青(+50V), 赤(-50V)の電源レールをレベルシフトした波形(0.5V程度の電圧降下と出力振幅に応じた矩形波が重畳している)、

水色(加算回路の出力(ゲイン4.7倍)、灰色(変調器出力(電源レールの変動が加算された三角波(+-2.5V, 480kHz))、

ピンク(入力)、緑(出力(ゲイン40倍)/30)です。

 

結果としては、

電源変動のフィードバックをかける前のTHD20=0.44%,

電源変動のフィードバックをかけた後のTHD20=0.37%です。

16%のTHD20の改善が得られました。