1000VA理想ダイオード正負電源の設計

400W SiC BTL Class D PS-ZVSアンプ用の1000VA理想ダイオード正負電源を設計します。

主要コンポーネント:

トロイダルトランス 92344-P2S2

理想ダイオード・ブリッジ・コントローラ LT4320

MOSFET STF140N6F7

NTC B57364S0509M0

 

参考資料:

Zero-Voltage Switching Full-Bridge Converter: Operation, FOM, and Guidelines for MOSFET Selection

LTspiceを使った回路設計手法 5. MOS-FETの定数設定詳細

LTspice VDMOSのパラメータ

データシートに基づくトロイダルトランスのSPICEモデル作成

300VAトロイダルトランスの突入電流対策と理想ダイオード正負電源の試作

 

まず、STF140N6F7のVDMOSモデルを作成します。

最終的にこのようなモデルとしました。

.MODEL STF140N6F7 VDMOS (NCHAN
+mfg=ST Vds=60 Ron=3.5m Qg=55n
+VTO=4 KP=32.5 subthres=1e-7 mtriode=1 LAMBDA=0
+CGS=2907p CGDMIN=96.5p CGDMAX=1763p a=1
+CJO=1357p M=0.5 VJ=1.0
+RG=56.6 RDS=6e6 RS=3.5m RD=0.0m IS=1e-14 N=1.0)

ゲートチャージの確認

出力特性の確認

 

トロイダルトランスのパラメータ:

Primary:44.2 mH, 0.55 Ohm

Secondary: 5.82 mH, 0.0677 Ohm

K: 0.996

 

PSUの出力の確認

 

SiC MOSFETアンプの試作

SCT2450KEでの試作です。

回路図はこちら。

 

LT1166による準コンプリメンタリで、

ベースストッパーは100Ω、ゲートストッパーは120Ω、バイアスは1A, 出力段のバイパスコンデンサは1000uFとしています。

実際の試作機はこちら。

LT4320とFDH038AN08A1による理想ダイオード電源でならしています。

 

肝心の音の印象は、締まった低音と臨場感のある高音で、ややおとなしい感じです。

LT1364によるヘッドホンドライバで聴いている音の感じをややドライにした感じで、

音の見通しがよく、ソースの音がそのまま出てくる感じです。

ベースラインやコーラスが聞き取りやすいです。

 

 

理想ダイオードブリッジコントローラの保護回路(TVS)

LT4320のデータシートを読んでいて、以下の文章が気になりました。

トランジェント電圧サプレッサ
LT4320の絶対最大定格を超える短い過電圧イベントが発生する可能性があるアプリケーションでは、
LT4320のできるだけ近くに、
OUTPピンとOUTNピンの間に単方向トランジェント電圧サプレッサ(TVS)を取り付けてください。

次にTVSの選択方法を調べていく中で、
スタンドオフ電圧、ブレークダウン電圧、クランプ電圧の関係が
よくわからなかったので以下のサイトを参考に、
シミュレーションをしてみました。

サージ・サプレッサの特性

TVSとしてSTMのTRANSIL 1.5KE56AのSPICEモデルを選択して、
8/20usの指数関数パルスをピーク電圧350V,500V,750V,1KVをそれぞれ
ソースインピーダンス4Ωで印加しています。

ブレークダウン電圧56Vでクランプが始まりますが、

ピークパルス電圧に応じて、

クランプ電圧が66Vまで、

ピークパルス電流が22A、

電力損失が1.4KWまで

それぞれ上昇していくことがわかります。

 

オーディオアンプ用の正負電源の場合
定常電圧は45Vなので、
スタンドオフ電圧はこれよりも大きくないとTVSが誤作動してしまいます。

一方、LT4320のOUTPの最大電圧は72Vなので、
TVSのブレークダウン電圧とクランプ電圧がこれよりも小さくないと保護できません。

また、TVSのピークパルス電力損失Pppは想定されるサージを吸収できることが必要です。

結論としては、1.5KE56A(最大損失1500W, ブレークダウン電圧56V)でよいようです。

 

理想ダイオード正負電源のMOSFETのSOA

LT4320による理想ダイオード正負電源のMOSFETの選択方法はデータシートに詳しくありますが、

平均出力負荷電流(IAVG)、最大許容ドレイン-ソース間電圧(VDSS)、

オン抵抗(RDS(ON) )、総ゲート電荷量(Qg)、

ゲート・スレッショルド電圧(VGS(th))には触れているものの、

安全動作領域(SOA)に関しては特に触れていません。

 

実際に低オン抵抗のMOSFETを選んでみると、

軒並みドレイン・ソース間電圧が10V付近のドレイン電流は素晴らしいですが、

最大許容ドレインソース間電圧の付近ではほとんど電流を流せないものばかりです。

 

オーディオパワーアンプ用電源の設計なので、

50V、6Aまで10msのパルスドレイン電流が

安全動作領域に入っていることが、

8Ω, 100Wのアンプの電源としては望ましいです。

 

また、起動時の突入電流が安全領域に入っていることが必要です。

 

実際にシミュレーションしてみると、

300VA, 115V, 35V, 2回路のトロイダルトランスで

40,000uFの平滑用電解コンデンサに充電していく過程としては、

電圧が45Vに向かって指数関数的に増加しながら

電流は60Aから指数関数的に減少していきつつ、

パルス幅も6.6msから減少していきます。

lt4320_fdh5500_f085_asc

fdh5500_f085woicl

50Hzのピーク電流, 電圧、パルス幅を拾ってみるとこんな感じです。
t1, 8V, 60A, 6.6ms
t2, 20V, 42A, 6ms
t3, 26V, 30A, 4.9ms
t4, 28V, 24A, 4.3ms
t5, 33V, 17A, 4.8ms
t6, 35V, 16A, 3.5ms
t7, 36V, 11A, 3ms
t8, 37V, 11A, 2.9ms
t9, 38V, 8A, 2.5ms
t10, 39V, 8A, 2.5ms
t11, 39V, 6A. 2.2ms
t12, 40V, 6A, 2,2ms

これらの整流時のドレイン電流の値を

FDH5500_F085のデータシートの安全領域にプロットしてみると、

fdh5500_f085_soa
10msの境界が10V, 60Aから40V, 8A、
1msの境界が10V, 180Aから40V, 20Aとなっていて、
ピーク電流が10msと1msの間の領域を推移するので、
突入電流対策が故障したとしても、
MOSFETの破壊はなさそうです。

また基板のパターンの銅箔には抵抗があるので、
突入電流で燃えないように、十分な線幅と厚みが必要です。

もちろん実際の設計には、

NTC(負の温度係数を持つサーミスタ)を

ICL(突入電流制限)として入れるので、
ピーク負荷時でも10ms領域の中に止まる設計です。

ICLを入れたシミュレーションはこんな感じです。

lt4320_fdh5500_f085_icl_asc

lt4320_fdh5500_f085wicl

300VAトロイダルトランスの突入電流対策と理想ダイオード正負電源の試作

300VA 一次側115V 二次側35Vのトロイダルトランス

(Nuvotem 91253-P2S2)の二次側の突入電流は,

シミュレーションしてみると65Aのピークが最初にやってきます。
なるほど、理想ダイオード電源の基板が燃えるわけです。

inrushcurrent

いろいろ検討した結果、今回は突入電流対策として、NTCを使いました。

NTC thermistors for
inrush current limiting
Leaded and coated disks, P27 series

ICL
EPCOS
B57127P0509M301

5Ω, 20A, 10Wで冷却時定数が200sですが、
正負ともに整流用電解コンデンサ30,000uF、
ブリーダー抵抗が4.7kΩでこちらの方が時定数が長いので、
問題ないようです。

これを2個直列に一次側に取り付けたら、
15Aのヒューズで問題なく動作するようになりました。

シミュレーションでも一次側のピークが20Aから5A、
二次側のピークが65Aから17Aに下がります。

幸い、理想ダイオード電源基板の焼損自体は局所的だったので、
ポリウレタン線でバイパスしたら動作しました。

アンプの電源投入時にも
ブラウン管テレビの電源投入時のような、
突入電流のうなり(100Hzの指数関数的減衰波形)が聞こえます。

また、理想ダイオード正負電源は直流側で+-45Vが得られています。
もたもた測定していたら、テスター棒にバチッと落雷してびびりましたが。(笑)

通常のダイオードブリッジによる整流だと+-42Vなので、
この差はゲートスレッショルド電圧が
4V程度必要なMOSFETアンプには好都合です。

整流用のMOSFETの発熱もほとんどありません。
もはやトランスの方が温かいくらいです。

理想ダイオード正負電源の回路設計

理想ダイオード・ブリッジ・コントローラでLT4320というのがあります。

これを2個使ってSiC MOS FETアンプの+-50Vの電源を作ろうと思います。

スイッチング用のMOS FETはFDP027N08Bが良さそうです。

まずは、LTspiceで回路図を作成。

IdealDiodeBridgeAsc

過渡分析の結果はこんな感じです。

IdealDiodeBridgeTrans

オン抵抗が2.7 mΩで発熱がSiC SBDよりも一桁小さいので、ヒートシンクも要らない感じです。

また、順方向電流の定格が223Aもあるので、突入電流(平滑用コンデンサ60,000 uFで21A程度ある)が問題にならないのがすばらしいです。