電流モードのD級GaN MOSFETアンプの設計

D級パワー・アンプの回路設計

第6章 電流モードのハーフ・ブリッジD級パワー・アンプ

を参考にして、

これまでの電圧モード(LPFを含まない帰還構成)を踏まえて、

電流モード(LPFを含む帰還構成)の設計をしてみます。

 

まず、LT Spiceによるシミュレーションモデルです。

本来は、積分器の入力もLPFを含める形で設計するようですが、

必要な自励発振周波数(800kHz程度)が得られないため、

LPF通過前のスイッチングノードの電圧を積分制御(LT1122)に入力し、

比例制御(LT1122)で積分制御の出力とLPF通過後の出力電圧を差動増幅後、

電流検出器(LT1995)の出力(LPFのコイルの電流に比例する電圧)とともに

比較器(LT1016)に入力しています。

電流検出器の出力振幅で自励発振周波数を調整して、

積分器の時定数で、負荷抵抗が最大(シミュレーションでは10kΩ)の時の

安定性を確保します。

ハーフブリッジ(TPH3206PSB)がアイドル時にZVSになるように

デッドタイムはゲートドライバ(Si8244)で、120nsに調整しています。

 

つぎに+-1V, 10kHzの矩形波入力時の過渡応答を示します。

FFTはこちらです。

 

電圧モードのD級GaNアンプは、

積分器だけの簡単な制御回路で、

自励発振周波数が高い(1.3MHz程度)反面、

ZVSにするためにはデッドタイムを長くする必要(200ns)があります。

そのため、ゼロクロス歪みがやや大きいのと、

大振幅時に反対側のPWMのパルス幅が0になる(Sliver Pulse)ため、

B級動作のような状態になっています。

 

一方、電流モードのD級GaNアンプは、

比例制御と電流検出のオペアンプが増えるため制御回路がやや複雑にはなりますが、

LPFの負荷変動を制御できるのと、

定電流アンプにPI制御を組み合わせて定電圧アンプにしているため、

過電流保護回路(OCP)の代わりに直流保護回路(DCP)を盛り込めます。

 

肝心の音の違いはどの程度でしょうか?

試作をしてみるしかなさそうです。

 

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TPH3206PSBによるD級GaN MOSFETアンプの試作

TPH3206PSBを用いてD級GaN MOSFETアンプを試作しました。

基板と定数はC3M0280090DによるD級SiC MOSFETアンプと同じです。

TPH3206PSBはピン配置がGSDで、

ソースタブからケルビン接続を行っています。

LT Spiceシミュレーションによると、自励発振周波数は3MHz程度となっています。

アイドル時の出力オフセット電圧の実測値は、ほぼ0mVなので、

スイッチングノイズはC3M0280090D(実測Vos=10mV程度で信号線への放射ノイズからの影響が大きい)

よりも少ないようです。

TPH3206PSB(GaN)の音質は、C3M0280090D(SiC)よりも、緻密でおとなしい感じです。

 

 

C3M0280090DによるD級SiC MOSFETアンプの試作

C3M0280090DによるD級SiC MOSFETアンプを試作しました。

主回路には、

スイッチングMOSFETにC3M0280090D,

ゲートドライバにSi8244,

コンパレータにLT1016,

積分器にLT1122,

をそれぞれ用いて、

出力は100W(8Ω),

ゲインは30倍,

ゲート抵抗は4.7Ω,

デッドタイムは24ns,

アイドル時の自励発振周波数は3.19MHz/3.23MHzとしています。

 

また、保護回路には、

電流検出にLT1990,

コンパレータにLM339,

を用いて、

UVPとOCPを実装しています。

 

肝心の音の方は、

DSDの音を直接スピーカーで聴いているような感じで、

ソースの音がそのまま出てきます。

 

スイッチングMOSFETの発熱も少ないので、

通常の音量であれば、

ヒートシンクも温かくなる程度です。

 

C3M0065090DによるAB級BTL SiC MOSFETアンプの回路設計

Wolfspeed(CREE)のC3M0065090DによるAB級ブートストラップアンプ(LT1166)を

反転増幅器(LT1122)で2つつなげばBTLアンプになります。

 

2つのアンプの差動出力によって、電圧と電流が2倍になるため、

熱損失と電流制限を考慮して定数などを見直す必要があります。

 

また、反転増幅器と2つのブートストラップアンプの電源は独立している必要があるため、

1チャネルあたり3つのDC-DCコンバータ(DPBW03G-15)が必要になります。

 

C3M0065090DのVDMOSモデルを示します。

.MODEL C3M0065090D VDMOS (NCHAN
+VTO=3.5 KP=4.0 subthres=8e-1 mtriode=1 LAMBDA=0
+CGDMAX=50e-12 CGDMIN=2e-12 a=0.5
+CGS=656p CJO=0.375n M=1.0 VJ=4.8

 

LT SPICEによるシミュレーションモデルの回路図を示します。

LT1122はユニティゲインで用いるため位相補償をしています。

 

+-1.5V, 10kHzの矩形波入力による過渡解析の結果を示します。

差動出力のため振幅が2倍になっていることが分かります。

FFTの結果を示します。

ノイズフロアが-100dBに上昇しています。

 

周波数解析の結果を示します。

帯域はDC-55kHz(-3dB)、ゲイン交差周波数は1MHzで位相余裕は40dBに減少します。

 

出力は500Wを越えますが、

歪みと熱損失も大きくなるため、

対策のためのコストもそれなりにかかります。

C3M0280090DによるD級SiC MOSFETアンプの回路設計

Woflspeed(CREE)のC3M0280090DでD級アンプを再設計しました。

IRAUDAMP7Dを参考に、

ゲートドライバはSi8244, 積分器はLT1122, コンパレータはLT1016を用います。

また、OCPはLT19907G17B-220の直流抵抗を利用します。

 

CREEのSPICEモデルはシミュレーションに適さないため、

データシートに基づいて、VDMOSモデルを作成しました。

.MODEL C3M0280090D VDMOS (NCHAN
+VTO=3.5 KP=1.0 subthres=8e-1 mtriode=1 LAMBDA=0
+CGDMAX=50e-12 CGDMIN=2e-12 a=0.5
+CGS=148p CJO=0.1175n M=1.0 VJ=4.8

 

SPICEシミュレーションの回路図を示します。

ZVSとなるように、デッドタイムは100nsに設定しています。

無信号入力時の自励発振周波数は1.8MHzになります。

保護回路は、

UVPとOCPをLM339でWired-Orして2N3904で

Si8244のDISABLEを駆動しています。

+-1V, 10kHz矩形波入力時の過渡解析を示します。

LPFの前からフィードバックをかける自励発振式のため、

オーバーシュートがあります。

FFTの結果を示します。

ノイズフロアは-68dBで

発振周波数は800kHzまで低下しています。

電力変換部を線形・平均化モデル(ラプラス素子パデ近似による)に置き換えた

AC解析用の回路図を示します。

周波数解析の結果を示します。

ゲイン29.6dB(Av=-30.3)のAC結合で、

帯域は2Hz-69KHz(-3dB)となりました。

 

D級GaN MOSFETアンプ積分器用オペアンプの検討

当初、LT1363で試作したD級GaN MOSFETアンプですが、

ノイズとオフセットが大きいので、他の積分器用オペアンプを検討しました。

動作条件としては+-5Vで、2次のLPF(3.3kΩ/470pF, 200/220Ω,470pF)による反転増幅 (積分回路)で、1MHz程度の自励発振周波数、コンパレータへの出力には470pFをぶら下げています。

データシートのスペックではそれぞれ一長一短がありますが、

SPICEシミュレーションで挙動を比較した上で、

候補としてLT1220, LT1357, LT1122を選んで、試聴比較してみました。

LT1220は、ややおとなしい感じです。

LT1357は、高域が素晴らしいです。

LT1122は、低域が素晴らしいです。

好みや聴く音楽のジャンルにもよると思いますが、

LT1122がオフセットも小さい(実測値 0-0.1mV程度)ので、

おすすめです。