Fostex FF105WKの周波数特性と音場補正

Fostex FF105WKの周波数特性と音場補正についてまとめておきます。

 

10cmフルレンジ、2層紙コーンとアルミ・リッジドームによるメカニカル2-wayのユニットを

バスレフにしています。

 

REWのEQ画面です。

 

低域のピークは部屋の定在波、1.5kHz周辺の盛り上がりは分割共振と思われます。

93.7Hz, 134.5Hz, 210Hz, 315Hz, 1,501Hzのピークをつぶして、

227Hzを持ち上げるEQになっています。

音は下から上まで元気よく出る感じで、

よいスピーカーに仕上がっています。

高域はリッジドームの軸特性の影響を受けるので、

セッティングとリスニングポジションに注意が必要です。

 

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WP-FL10のTSパラメータとバスレフでの周波数特性

WP-FL10のバスレフにおける設計をまとめておきます。

WP-FL10のデータシートに載っている情報は、

TSパラメータの一部と周波数特性のグラフだけです。

まず、spedで必要なTSパラメータを導出します。

Re(Rdc)は、WP-FL10の実測値(7 Ohm)です。

Blは、周波数特性のグラフが88dB程度になる値(3 Tm)としています。

Leは、FF105WKの値(0.041 mH)を参考にしています。

他のTSパラメータは、TSパラメータについてを参考に計算すると、

このようになります。

次に、エンクロージャーですが、

FF105WKのデータシートを参考にしたものが入手しやすいようです。

spedでのシミュレーションの様子です。

最後に、バスレフ方式の設計法を参考に、

エンクロージャー容量とダクトの共振周波数の関係を

評価((Fd/Fs)^2/(Vas/Vo))=1が目標値)します。

0.95となって、おおむね良さそうです。

 

実際に試作して音を確認してみると、

100Hz付近に盛り上がりがありますが、

自然な感じの低域になっています。

m0(Mms)が2.5gと軽く、

f0(Fs)が61Hzと低いため、

ユニットのインピーダンス曲線のQが広くなっているのが

効いているようです。

 

バスレフの最適設計

バスレフの最適設計のポイントをまとめておきます。

等価回路によるスピーカー低域特性の解析とキャビネット設計法

を参考にしています。

最適化の対称はバスレフ共振周波数付近の周波数特性の平坦性です。

 

これまでに実際に試作したバスレフのパラメータ例を2つまとめておきます。

ユニットのTSパラメータはデータシートから取得し、

エンクロージャーのVo, Fdは

吸音材の厚みを5mmとして板厚を補正したモデルで、

spedでシミュレートして求めています。

Case1: FF105WK, WK10mFN, P43-123

Case2: CHR70v3, NC7, STBP35-103

 

設計の手順としては、

通常、まずユニットを選択します。

考慮すべきT/Sパラメータとしては、Vas, Fs, Qtsとなります。

Qtsは0.5を大きく超えると平坦特性は実現できません。

 

つぎに、エンクロージャーの容量を選択します。

Vasとの比率を考慮する必要があります。

容量を大きくすると共振周波数を下げられますが、

群遅延とのトレードオフになります。

 

最後に平坦条件:(Fd/Fs)^2/(Vas/Vo)=1に近くなるように、

バスレフポートの共振周波数を調整します。

ポートの断面積が圧力に関連していてばね定数が決まり、

ポートの長さでおもりの質量を調整していることになります。

 

考察としては、

Case1(FF105WK)は、Vas/VoとFd/Fsがともに1に近い設計で、

最低周波数よりも群遅延を優先して、キレのある低音になっています。

 

一方、Case2(CHR70v3)は、エンクロージャーの容量を大きくした設計で、

最低周波数を50Hzまで下げて、豊かな低音になっています。

群遅延の上限は20ms(50Hz)程度のようなので、ほぼ限界的な設計だと思います。

 

バスレフポートの共振周波数と吸音材の厚み

バスレフスピーカーでは、

吸音材の厚みによってエンクロージャーの容積が減少するので、

バスレフポートの共振周波数は上昇します。

シミュレーションでは以下のような値になります。

共通:FF105WK(Fs=75Hz), WK10mFN, P43-123

吸音材なし:t=15mm, Vo=6.33L, Fd=67Hz

吸音材(EE-1010): t=20mm, Vo=5.31L, Fd=73Hz

吸音材(NF5093): t=25mm, Vo=4.39L, Fd=80Hz

実際の聴感としても、

吸音材の素材の違い(ニードルフェルト、エプトシーラー)による、

音質の変化(バスレフポートや振動板から漏れるエンクロージャー内の定在波など)

もありますが、

バスレフポートの共振周波数と群遅延の変化による影響の方が大きいようです。

 

特に容量の小さいエンクロージャーの場合、

吸音材の厚みおよび体積の影響が大きいので、

注意が必要です。

FF105WKとWK10mFNおよびP43-123によるバスレフスピーカーの試作

FF105WKでバスレフ(fd=67Hz)を構成してみました。

テストトーンによる測定では、55Hzまで出ています。

10cmのフルレンジとしては、十分なレベルだと思われます。

データシートの周波数特性はこんな感じです。

7.5kHzにリッジコーンによるとおもわれるピークがありますが、

30度の特性では収まっているので、

実用上は問題ありません。

しかしながら、ユニットを傾けて取り付けたり、

エンクロージャーを横置きする場合は、

注意が必要と思われます。

実際に、7.5kHzの帯域をイコライザで、

調整してみると、シンバルや

ギターのタッチノイズの音域であることがわかります。

 

音の印象としては、

上から下まで緻密な音で、低音は空気の揺らぎまで感じます。

これは、BL積=4.823 Tesla/mに寄与している強力なマグネットと

2層コーンおよびアップロール・エッジによるものと思われます。

実際、ユニットの取り付けの際には、

スチールのフレームにスクリュードライバが引きつけられます。

 

吸音材としてニードルフェルトをバッフル面の内側を除いた5面に貼っていますが、

バスレフにもかかわらず、制動の効いたこぎみよい低音が出ます。

バスレフ専用設計をうたうユニットだけのことはあります。

 

また、リッジドームのおかげで、

シンバルやブラシなどの金物の音も不満なく聴けます。

 

ボーカルはペーパーコーンなので、これまたよい感じです。

 

ロングセラーを続けるユニットだけに、

リファレンスとして持っておくとよいと思います。