データシートに基づくSiC MOSFETのVDMOSモデルの作成

Wolfspeed(CREE)のC3M0280090D, C3M0120090D, C3M0065090DのSPICEモデルは

温度パラメータが入っているため、非線形の振る舞いをします。

そのため、データシートの値を元にVDMOSモデルを作成しました。

 

それぞれの

VDMOSモデル、

Transfer Characteristic(Ids,  Vgs)、

LT SPICEの回路図、

過渡解析の結果(VDMOS(緑)CREE Subckt(青))を示します。

 

.MODEL C3M0280090D VDMOS (NCHAN
+VTO=3.5 KP=1 subthres=8e-1 mtriode=1 LAMBDA=0
+CGDMAX=50e-12 CGDMIN=2e-12 a=0.5
+CGS=148p CJO=0.1175n M=1.0 VJ=4.8
+RG=26 RDS=1e8 RS=1e-3 RD=280e-3 IS=1e-6 N=1.0)

 

.MODEL C3M0120090D VDMOS (NCHAN
+VTO=3.5 KP=2.0 subthres=8e-1 mtriode=1 LAMBDA=0
+CGDMAX=100e-12 CGDMIN=4e-12 a=0.5
+CGS=347p CJO=0.2875n M=1.0 VJ=4.8
+RG=16 RDS=1e8 RS=1e-3 RD=120e-3 IS=1e-6 N=1.0)

 

.MODEL C3M0065090D VDMOS (NCHAN
+VTO=3.5 KP=4.0 subthres=8e-1 mtriode=1 LAMBDA=0
+CGDMAX=50e-12 CGDMIN=2e-12 a=0.5
+CGS=656p CJO=0.375n M=1.0 VJ=4.8
+RG=4.7 RDS=1e8 RS=1e-3 RD=65e-3 IS=1e-6 N=1.0)

 

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C3M0120090DによるAB級 SiC MOSFETアンプの回路設計

Wolfspeed(CREE)のC3M0120090Dで、

LT1166によるブートストラップアンプを再設計しました。

 

LT1166はゲート電圧を0/+-12Vまでしか駆動できないため、

従来のゲート電圧の高いSiC MOSFETの駆動には工夫が必要ですが、

C3M0120090Dはゲート電圧を0/+15Vで駆動できるので問題なく動作します。

 

ところが、CREEの提供するSPICEモデルが温度パラメータを盛り込んでいて、

非線形の振る舞いをするため、オーディオアンプのシミュレーションには適しません。

そのため、データシートをもとにVDMOSモデルを作成しました。

.MODEL C3M0120090D VDMOS (NCHAN
+VTO=3.5 KP=2.0 subthres=8e-1 mtriode=1 LAMBDA=0
+CGDMAX=100e-12 CGDMIN=4e-12 a=0.5
+CGS=347p CJO=0.2875n M=1.0 VJ=4.8

 

LT1166のデータシートに基づく、

ブートストラップアンプの回路は次のようになります。

エミッタディジェネレーションBJTドライバで

出力SiC MOSFETを駆動する準コンプリメンタリ構成です。

 

発振防止対策として、

BJTに対してベースストッパ(100Ω)とスピードアップコンデンサ(470pF)を

SiC MOSFETに対してゲートストッパ(100Ω)を適用しています。

 

+-1.5V, 10kHzの矩形波入力時のSPICE過渡解析とFFTの結果を示します。

ゲインは27dB(Av=-22.4)、

ノイズフロアは-120dBで、

偶数次高調波は-60dBとなっています。

周波数解析の結果を示します。

帯域はDC-64kHz(-3dB)、

ゲイン交差周波数は900kHzで位相余裕は70degあります。

 

なお、サスペンデッド電源としては、

絶縁型DC-DCコンバータ(DPBW03G-15)を用いて、

実装を単純化します。

 

 

SiC MOSFETとSiC SBDによるアンプ

Infenionに買収されたWolfspeed(CREE)の

SiC MOSFETとSiC SBDを調べていたら、

価格もスペックも使いやすそうなので、

これらのデバイスを使用したアンプを設計しました。

C3M0120090D
Silicon Carbide Power MOSFET
C3MTM MOSFET Technology
N-Channel Enhancement Mode
VDS 900 V
ID @ 25˚C 23 A
RDS(on) 120 mΩ

C3D06065A
Silicon Carbide Schottky Diode
Z-Rec™ Rectifier
VRRM = 650 V
IF (TC=135˚C) = 8.5 A
Qc = 16 nC

sicampasc

今回の設計のポイントはドライバ段の

エミッタ・ディジェネレーション(Emitter Degeneration)の使い方にあります。

Bob CordelのDesigning Audio Power Amplifiersに詳しくありますが、
エミッタ・ディジェネレーションは

BJTの増幅率の安定性や線形性を向上させる(より低歪にする)ために、

あらゆるアンプを構成する基本回路に組み込まれている基本技術です。

エミッタとコレクタに抵抗を入れると、その抵抗比で増幅率が決まるのと、

負帰還により増幅率の安定性が増すというのが簡単な説明ですが、

ここではユニティゲインバッファのドライバなので、増幅率は1でよく、
むしろ準コンプリメンタリで入力容量の大きなMOSFETを

安定かつ低歪にドライブするのが目的です。

 

入力容量の大きなパワー段のMOSFETに、

大振幅の矩形波を入れたときの大きなスイッチングに対して、

安定して追従できることが必要になります。

 

多くの準コンプリメンタリ(QCFP)の回路は、

ドライバ段の上側のコレクタ抵抗は入れずに、

下側のみ反転増幅の電位を取り出すためにコレクタ抵抗を入れているようですが、

これだと十分安定な回路になりません。

 

そこで、上下対称に同一値の抵抗を4本入れて抵抗値をシミュレーションで調整したところ、

20kHzの矩形波応答に関して十分な線形性と安定性が得られました。

sicamp20kpulseresponse

この回路の面白いところは、NPNとPNPの4つの組み合わせ

全てをドライブできるところにあります。

 

もっとも、実用的にはNPNとNPNの準コンプリメンタリで、

幅広いMOSFETをパワー段にチョイスできるところに価値があります。

 

ドライバ段のBJTも色々ありますが、

最大負荷の矩形波応答に対して、耐圧、電流、熱損失を満たす

コンプリメンタリペアを選べます。
Sanken 2SC4883A/2SA1859A
Onsemi MJE243/MJE253
などでシミュレーションしてみましたが、
THDで見る限り、ドライバ段による違いはほとんどでないようです。

 

パワー段もIRF530, IRFP240, HUF75639, C3M0065090Dを難なくドライブできるようです。

 

アンプの基板はこんな感じになります。

sicampbrd

電源はSiC SBDの電圧降下が大きいので、

シンプルなセンタータップ式の構成で設計してみました。

sicpsubrd