AB級SiC MOSFETアンプのドライバBJTの交換

AB級(LT1166)SiC MOSFET(C3M0280090D)アンプの

ドライバBJTをMJE15032/MJE15033に交換しました。

 

交換前のドライバBJT(2SC4883A/2SA1859A)は、

コンプリメンタリとはいっても、

ftがそれぞれ120MHz/60MHzと大きく違うのと、

hfeのばらつき温度特性の影響か、

ベースストッパーが100Ωではノイズが出たり、

大音量では歪むようです。

 

そこで、ドライバBJTをMJE15032/MJE15033に変えてみたところ、

音が全く別次元といった感じに激変しました。

 

このあたりがオーディオの醍醐味というか、

回路やデータシートのパラメータは物理モデルの一部でしかないと

いうことですね。

 

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C3M0280090DによるAB級SiC MOSFETアンプの試作

C3M0280090DによるAB級SiC MOSFETアンプの試作です。

ドライバBJT(2SC4883A , 2SA1859Aの発振に起因すると思われる

貫通電流とノイズに対処するために、ベースストッパを100Ωから510Ωに引き上げました。

バイアスコントローラ(LT1166)の外部補償コンデンサ(Cext1(Vtop), Cext2(Vbottom))は470pFにしています。

また、アイドル電流を下げるために、電流検出抵抗を0.1Ωから0.22Ωに引き上げました。

なお、出力を絶縁するためのインダクタ(0.1uH)も空芯コイルから

フェライトコア(RLB9012-1R0ML)のものに変えました。

 

ベースになっている回路図をLT1166のデータシートから引用します。

Fig. 19 100W Audio AmplifierはコンプリメンタリのMOSFET(IRF530, IRF9530)を

シャントレギュレータドライブ(LT1360によるV/I変換)のLT1166で駆動する回路です。

Fig. 8 Bipolar Buffer Ampはダーリントンドライバ(2N2222, 2N2907)と直列ダイオード(1N4001)で、

コンプリメンタリのBJT(TIP29, TIP30)をLT1166で駆動する回路です。

これらの2つの回路をもとにダーリントンドライバとして2SC4883A, 2SA1859Aを用いて、

エミッタディジェネレーションで上側はエミッタドライブ、

下側はコレクタドライブする準コンプリメンタリ構成で

出力トランジスタのC3M0280090Dを駆動しています。

 

音自体は、もちろん素晴らしいですが、

発振対策が必要なので、実装には注意が必要です。

 

SiC MOSFETアンプのエミッタディジェネレーションの調整

SiC MOSFETアンプのドライバ段のエミッタディジェネレーションを調整して、

電源レールを効率よく利用できるようにします。

回路図はこちらです。

上下のドライバ段のBJT(2SC4883A, 2SA1859A)のコレクタ抵抗とエミッタ抵抗を10Ω/100Ωに設定しています。

従来は、これらの抵抗を歪率と対称性を重視して100Ω/100Ωに設定していました。

しかし、対称な設定では、出力段のMOSFET(SCT2450KE)の駆動に利用していない側の

コレクタとエミッタの電圧振幅も電源レールを占有ししまうため、

出力電圧の振幅が制限されていました。

 

LTspiceによる過渡応答(1.3V, 20kHz正弦波入力)はこちらです。

エミッタディジェネレーションを10Ω/100Ωにすることで

青のコレクタ電圧、赤のエミッタ電圧の振幅を小さくした結果

ゲイン20倍で、+-27Vまで出力振幅が取れています。

 

この非対称なバイアス設定によるB級動作での大振幅時のTHD-20の増加はわずかで、

小入力時のA級動作での影響は相対的に無視できるレベルです。

LT1166はバイアス電流積を一定になるよう制御するため、

プッシュ動作時とプル動作時でバイアスが変動します。

このため、BJTコンプリメンタリドライバによるMOSFET準コンプリメンタリ出力が

容易に実現できます。

 

試作機でも、問題なく動作しています。

 

GaN MOSFETアンプの性能

LT1166のデータシート Figure7. Current Source Driveの、

currentsourcedrive_bipolarbufferamp
RIN, RL, RF, CFのGaN MOSFETアンプにおける
最適値を探したところ、
RIN=2.4kΩ, RL=150Ω, RF=0Ω, CF=100pFとなりました。

具体的には、I/V変換をしているオペアンプ(U3: LT1360)の

電源ピン電流のゲインと位相が

できるだけなだらかになるようにすることがポイントのようです。

オペアンプの出力(C点)の位相余裕とゲイン余裕を大きくすることと、

THD-20を小さくすることを目標にすると、

電流変調の位相とゲインがピークやディップを持ってもわかりにくいようです。

 

これまでの結果として、
GaN MOSFETアンプのシミュレーション上の
特性値を上げておきます。

周波数特性:10-55kHz(-3dB)
歪率(THD-20, 入力:2Vpp, 20kHz正弦波):
8Ω,  55W, 0.002243%
4Ω, 110W, 0.004343%
2Ω, 219W, 0.006039%

最低インピーダンスが3Ωになるようなスピーカーでも、
余裕を持って鳴らせる値になっています。

(※実際の周波数特性はDCが下限。

実際の最大出力はTPH3205WSBのPD=125Wが上限。)

 

歪率自体もLT1166のデータシート
Figure 19. 100W Audio Amplifier

100waudioamplifier

(U2: LT1363のピン番号2, 3が入れ違っているので注意して下さい)
ドライバ段のないIRF530, IRF9530による
純コンプリメンタリの構成(0.005084%)よりも、

BJTによるドライバ段(2SC4883A, 2SA1859A)

(LT1166データシート Figure 8. Bipolar Buffer Ampを参照)と

GaN MOSFET(TPH3205WSB)による

準コンプリメンタリのパワー段による構成(0.002243%)

の方がよい値になっています。

 

設計目標は十分、達成しているので、試作に入りたいと思います。

 

GaN MOSFETアンプの発振対策

GaN MOSFETアンプの設計で、

SPICEシミュレーションを用いて、

ganampascgz

周波数応答、

ganamp_fr

矩形波応答、

ganamp_pr

静止バイアス電流、

正弦波応答を観察しながら

パラメータを詰めた結果をまとめておきます。

 

まず、GaN MOSFET(TPH3205B)に限らず、

入力容量が1000pFを越えるようなMOSFETをパワー段に用いると

ゲート電圧に寄生発振が起きるのが普通です。

 

今回は47Ω+100pFのゲートゾーベル(Gate Zobel)をゲートとドレイン間に設定して

100Ωのゲートストッパーでも抑制できない寄生発振を抑えています。

 

また、オペアンプ(LT1360)のI/V変換により電源ピンでゲートをドライブしていますが、

ゲイン余裕と位相余裕を得るためにフィードバック抵抗の値を3.3KΩから1.5KΩに下げています。

この値でも、1V, 20KHzの正弦波でのTHDが0.0058%となっています。

 

もちろん、基本的な対策として、

ドライバ段のBJT(2SC4883A, 2SA1859A)のベースストッパー(33Ω)と

パワー段のMOSFETのゲートストッパー(100Ω)は、最初から入れてあります。

 

一方、自動バイアス(LT1166)の

バイアス電流の検出抵抗値(0.1Ω+0.1Ω)と

電流制限の検出抵抗値(0.1Ω)を個別に設定し、

パワー段のMOSFETの

静止バイアス電流が100mA、

電流制限が13Aに設定しています。

 

また、ドライバ段の静止バイアス電流は、

100Ωのコレクタ抵抗と100Ωのエミッタ抵抗による

エミッタディジェネレーションで、27mAになっています。

MOSFETを高速でターンオフするためには、

ゲート容量を短時間で抜く必要がありますが、

その時間はこのドライバ段の静止バイアス電流で決まります。

 

駆動能力の確認として、

スピーカー相当の抵抗負荷を8Ωから2Ωまで下げてみても、

大きな貫通電流は生じず、1Ωから0Ωにした場合でも

ゲート電圧が18Vを越えないのでロバスト性も十分なようです。

 

SiC MOSFETアンプの回路設計

SiC MOSFETアンプを作ろうと思ったときに、まず困るのが、N-chしかないため、コンプリメンタリーの回路が組めないことです。

準コンプリメンタリ(Quasi Complementary Feedback Pair)の設計例を探しても、なかなか適当なのがみつかりません。

そこで、LT1166のデータシートに出ている回路をベースにLTspiceでシミュレーションしながら、出来上がったのが、次の回路です。

BJT(2SC4883A, 2SA1859A)によるドライバ段を追加して、ボトムサイドはR26(120Ω)とR27(510Ω)のエミッタ・ディジェネレーションで、出力段(SCT2120AF)をフルスイングするように設定しています。

LT1166AudioAmpQC2

AC Analysisの結果は次の画像です。C1を3 pFに設定して、周波数特性を100 kHzまで伸ばしています。位相余裕、ゲイン余裕も問題なさそうです。

SiCMOSFETGainPhase

Transient Analysisの結果は次の画像です。THD(3Vpp, 20 kHz)は、0.062870%とまずまずです。

Trans3VppSin20k.PNG

最後に20kHzの矩形波応答を見ておきます。問題なさそうです。

Trans3VppPulse20k.PNG