Markaudio CHR90用エンクロージャーの設計

MarkaudioのCHR90/CHR120が発売されています。

CHR90 新発売 CHR120コイズミ無線で 試聴できます。

Markaudio CHR120 CHR90 新登場 (まずはCHR120から)

 

今後、いろいろなエンクロージャーが出てくると思いますが、

CHR90でバスレフにもトランスミッションラインにもできる大きさの、

トールボーイとして設計するとこんな感じだと思います。

板厚にもよりますが、18-20リットル程度の容量で、

NC7のエンクロージャーを縦に2つ積んだ位のサイズです。

 

それにしても、

13cmフルレンジ一発で44-28kHzまで出せるのは、

見事なドライバユニットの設計だと思います。

 

 

広告

バスレフ・エンクロージャーの設計理論

WikibooksでAcoustics/Bass-Reflex Enclosure Desginを見つけたので、

要点をまとめておきます。

ポート付エンクロージャーの周波数応答への影響

図2:集中定数回路によるバスレフ・エンクロージャ音響回路のモデル

図3:ラウドスピーカーの振動板およびボイスコイルから見たインピーダンス

ポート付きエンクロージャーの定量解析

ボイスコイルのインピーダンスと放射インピーダンスの単純化による

低周波数(1kHz未満)での集中定数回路モデルの導出

図4:低周波数での等価音響回路

モデルを理解しやすくするための、パラメータの導入

ヘルムホルツ共鳴比(h=ωb/ωs)

容積比(α=Vas/Vab)

クオリティ・ファクター(Ql, Qts)

低周波圧力応答式の展開

体積速度と球面音源の式から

ファー・フィールドの圧力式を展開して伝達関数(H(s)を得る。

アラインメント

伝達関数の理想パラメータを決定するために、

フィルター理論のアラインメントを導入する。

伝達関数は4次ハイパスフィルターの構造をもち、

バタワースやチェビシェフフィルターなどの

伝統的なLPFの極配置アルゴリズムが適用できる。

バタワース・アラインメント

通過帯域の最大平坦化を目的とするアルゴリズム(B4)

準バタワース・アラインメント

3次準バタワースアラインメント(QB3(B>0))と

4次バタワースアラインメント(B4(B=0)の関係

図5:3次準バタワース周波数応答(0.1<=B<=3)

チェビシェフ・アラインメント

通過帯域にリップルを許容するアルゴリズム。

図6:チェビシェフ(0.5dBリップル)とバタワースのハイパス応答の比較

適切なアラインメントの選択

バタワース・アラインメントは、

Ql, Qts, h, αのうち1つを決定すれば、他の3つは一意に決定できる。

準バタワース・アラインメントは、

Qtsが小さくバタワースを構成できないときに、パラメータBを導入して決定できる。

チェビシェフ・アラインメントは、

Qtsが大きくバタワースを構成できないときや、さらに低域応答を広げたい場合に利用できる。

参考文献

等価回路パラメータの計算式

エンクロージャ・パラメータの公式

 

バスレフの吸音材の貼り方

バスレフの吸音材の貼り方に関する考察をまとめておきます。

 

設計例として、FF105WKのデータシートに載っている、

バスレフエンクロージャー(6L, 128x192x264mm)を引用します。

 

まず、吸音材を貼る目的は、定在波の低減です。

直方体のエンクロージャー内部で発生する定在波の周波数(kHz)は、

音速(340m/s)を面間、辺間、頂点間それぞれの距離(mm)で割れば求まります。

計算結果を表にしておきます。

幾何学的には、2.66kHzから0.97kHzの定在波が発生することがわかります。

これらの定在波をすべて低減するためには、

少なくとも平行でない3つの面に吸音材を貼ることが必要です。

また、吸音すべき周波数帯域は、通常、

400Hz以上のバスレフ共振に不要な帯域です。

 

バスレフの場合、エンクロージャーの容積が共振周波数に影響するため、

ニードルフェルトなど面に貼るタイプの吸音材はできるだけ薄いものが理想的です。

 

また、バスレフポートの開放端付近では、

空気の流れを阻害しないことが必要です。

 

したがって、グラスウールなど空間に充填するタイプの吸音材は、

位置を固定しづらく、

エンクロージャーの容積の減少に寄与する実質体積を定量的に把握するのが困難で、

詰めすぎると共振に必要な低域のエネルギーも吸収してしまうため、

バスレフには不向きと考えます。

 

WP-FL10のTSパラメータとバスレフでの周波数特性

WP-FL10のバスレフにおける設計をまとめておきます。

WP-FL10のデータシートに載っている情報は、

TSパラメータの一部と周波数特性のグラフだけです。

まず、spedで必要なTSパラメータを導出します。

Re(Rdc)は、WP-FL10の実測値(7 Ohm)です。

Blは、周波数特性のグラフが88dB程度になる値(3 Tm)としています。

Leは、FF105WKの値(0.041 mH)を参考にしています。

他のTSパラメータは、TSパラメータについてを参考に計算すると、

このようになります。

次に、エンクロージャーですが、

FF105WKのデータシートを参考にしたものが入手しやすいようです。

spedでのシミュレーションの様子です。

最後に、バスレフ方式の設計法を参考に、

エンクロージャー容量とダクトの共振周波数の関係を

評価((Fd/Fs)^2/(Vas/Vo))=1が目標値)します。

0.95となって、おおむね良さそうです。

 

実際に試作して音を確認してみると、

100Hz付近に盛り上がりがありますが、

自然な感じの低域になっています。

m0(Mms)が2.5gと軽く、

f0(Fs)が61Hzと低いため、

ユニットのインピーダンス曲線のQが広くなっているのが

効いているようです。

 

バスレフの最適設計

バスレフの最適設計のポイントをまとめておきます。

等価回路によるスピーカー低域特性の解析とキャビネット設計法

を参考にしています。

最適化の対称はバスレフ共振周波数付近の周波数特性の平坦性です。

 

これまでに実際に試作したバスレフのパラメータ例を2つまとめておきます。

ユニットのTSパラメータはデータシートから取得し、

エンクロージャーのVo, Fdは

吸音材の厚みを5mmとして板厚を補正したモデルで、

spedでシミュレートして求めています。

Case1: FF105WK, WK10mFN, P43-123

Case2: CHR70v3, NC7, STBP35-103

 

設計の手順としては、

通常、まずユニットを選択します。

考慮すべきT/Sパラメータとしては、Vas, Fs, Qtsとなります。

Qtsは0.5を大きく超えると平坦特性は実現できません。

 

つぎに、エンクロージャーの容量を選択します。

Vasとの比率を考慮する必要があります。

容量を大きくすると共振周波数を下げられますが、

群遅延とのトレードオフになります。

 

最後に平坦条件:(Fd/Fs)^2/(Vas/Vo)=1に近くなるように、

バスレフポートの共振周波数を調整します。

ポートの断面積が圧力に関連していてばね定数が決まり、

ポートの長さでおもりの質量を調整していることになります。

 

考察としては、

Case1(FF105WK)は、Vas/VoとFd/Fsがともに1に近い設計で、

最低周波数よりも群遅延を優先して、キレのある低音になっています。

 

一方、Case2(CHR70v3)は、エンクロージャーの容量を大きくした設計で、

最低周波数を50Hzまで下げて、豊かな低音になっています。

群遅延の上限は20ms(50Hz)程度のようなので、ほぼ限界的な設計だと思います。

 

FF105WKとWK10mFNおよびP43-123によるバスレフスピーカーの試作

FF105WKでバスレフ(fd=67Hz)を構成してみました。

テストトーンによる測定では、55Hzまで出ています。

10cmのフルレンジとしては、十分なレベルだと思われます。

データシートの周波数特性はこんな感じです。

7.5kHzにリッジコーンによるとおもわれるピークがありますが、

30度の特性では収まっているので、

実用上は問題ありません。

しかしながら、ユニットを傾けて取り付けたり、

エンクロージャーを横置きする場合は、

注意が必要と思われます。

実際に、7.5kHzの帯域をイコライザで、

調整してみると、シンバルや

ギターのタッチノイズの音域であることがわかります。

 

音の印象としては、

上から下まで緻密な音で、低音は空気の揺らぎまで感じます。

これは、BL積=4.823 Tesla/mに寄与している強力なマグネットと

2層コーンおよびアップロール・エッジによるものと思われます。

実際、ユニットの取り付けの際には、

スチールのフレームにスクリュードライバが引きつけられます。

 

吸音材としてニードルフェルトをバッフル面の内側を除いた5面に貼っていますが、

バスレフにもかかわらず、制動の効いたこぎみよい低音が出ます。

バスレフ専用設計をうたうユニットだけのことはあります。

 

また、リッジドームのおかげで、

シンバルやブラシなどの金物の音も不満なく聴けます。

 

ボーカルはペーパーコーンなので、これまたよい感じです。

 

ロングセラーを続けるユニットだけに、

リファレンスとして持っておくとよいと思います。

 

WP-FL10とWK10mFNおよびP43-123によるバスレフスピーカーの試作

WP-FL10は、かなりドンシャリの10cmフルレンジです。

しかも、用意したバスレフのエンクロージャー(WK10mFN)とダクト(P43-123)は、

もともとCHN70用なので、WP-FL10にはマッチしません。

本来なら、ダクトを(P35-120)などに変更するべきなのですが、

木工作業が面倒なので、他の手を考えました。

 

フィルタープラグイン(MBandPass)で、

HPF = 72Hz, -12dB/Oct, LPF = 15kHz, -6dB/Oct

を設定して、

WP-FL10の周波数特性をCHN70に近づけます。

 

狙い通り、とても上品な音になります。

 

この後、必要に応じて、

ネットワークなりダクトで調整するのが、

手っ取り早そうです。

 

密閉だと低域のイコライジングは当然なんですが、

バスレフもダクトの共振周波数に応じて、

低域のカーブを調整すると、

自然なバスレフの音になります。

 

アルミのセンターキャップの耳障りな

帯域も調整した方が、

聴きやすい音になります。

 

スピーカーのエンクロージャーはどの方式がよいのか?

スピーカーのエンクロージャーの方式として、

代表的な密閉、バスレフ、トランスミッションラインの3つを考えます。

 

まず、それぞれの方式の参考になる記事などをまとめて起きます。

 

密閉

クリプトン渡邉氏がスピーカー開発キャリアを総括。「密閉型」「2ウェイ」にこだわる理由とは?

 

バスレフ

Bowers & Wilkins 805 D3

 

トランスミッションライン

TRANSMISSION LINES-THE REAL WORLD MEANS TO ENHANCED PERFORMANCE MONITORING

 

ここでは、エンクロージャーの役割は、

スピーカーユニットの背面に放出される音波のエネルギーの利用方法で特徴付けます。

 

まず、密閉は、エンクロージャーによって閉じ込められた音波のエネルギー(定在波)を吸音材によって、熱エネルギーに変換して捨てています。

つぎに、バスレフは、エンクロージャーの容積とバスレフポートによる、ヘルムホルツ共鳴によって、低域のエネルギーを再利用します。

最後に、トランスミッションラインは、一方の端が閉じた閉管による気柱共鳴によって、低域のエネルギーを再利用します。

 

定量化や定式化が難しい設計のポイントとして重要なのは、

エンクロージャー内部やポート、ベントの内部に生じる定在波や、

ポートやベントに生じる乱流による風切り音などをどう処理するかにあります。

 

また、エンクロージャーの方式によって、

背圧などのスピーカーユニットへの反作用も変わってくるため、

最適な組み合わせにならない場合もあります。

 

いずれにしても、

スピーカーの最適設計のためには、

基本的な物理と工学的実現方法を

理解する必要があります。