Infenionに買収されたWolfspeed(CREE)の
SiC MOSFETとSiC SBDを調べていたら、
価格もスペックも使いやすそうなので、
これらのデバイスを使用したアンプを設計しました。
C3M0120090D
Silicon Carbide Power MOSFET
C3MTM MOSFET Technology
N-Channel Enhancement Mode
VDS 900 V
ID @ 25˚C 23 A
RDS(on) 120 mΩ
C3D06065A
Silicon Carbide Schottky Diode
Z-Rec™ Rectifier
VRRM = 650 V
IF (TC=135˚C) = 8.5 A
Qc = 16 nC
今回の設計のポイントはドライバ段の
エミッタ・ディジェネレーション(Emitter Degeneration)の使い方にあります。
Bob CordelのDesigning Audio Power Amplifiersに詳しくありますが、
エミッタ・ディジェネレーションは
BJTの増幅率の安定性や線形性を向上させる(より低歪にする)ために、
あらゆるアンプを構成する基本回路に組み込まれている基本技術です。
エミッタとコレクタに抵抗を入れると、その抵抗比で増幅率が決まるのと、
負帰還により増幅率の安定性が増すというのが簡単な説明ですが、
ここではユニティゲインバッファのドライバなので、増幅率は1でよく、
むしろ準コンプリメンタリで入力容量の大きなMOSFETを
安定かつ低歪にドライブするのが目的です。
入力容量の大きなパワー段のMOSFETに、
大振幅の矩形波を入れたときの大きなスイッチングに対して、
安定して追従できることが必要になります。
多くの準コンプリメンタリ(QCFP)の回路は、
ドライバ段の上側のコレクタ抵抗は入れずに、
下側のみ反転増幅の電位を取り出すためにコレクタ抵抗を入れているようですが、
これだと十分安定な回路になりません。
そこで、上下対称に同一値の抵抗を4本入れて抵抗値をシミュレーションで調整したところ、
20kHzの矩形波応答に関して十分な線形性と安定性が得られました。
この回路の面白いところは、NPNとPNPの4つの組み合わせ
全てをドライブできるところにあります。
もっとも、実用的にはNPNとNPNの準コンプリメンタリで、
幅広いMOSFETをパワー段にチョイスできるところに価値があります。
ドライバ段のBJTも色々ありますが、
最大負荷の矩形波応答に対して、耐圧、電流、熱損失を満たす
コンプリメンタリペアを選べます。
Sanken 2SC4883A/2SA1859A
Onsemi MJE243/MJE253
などでシミュレーションしてみましたが、
THDで見る限り、ドライバ段による違いはほとんどでないようです。
パワー段もIRF530, IRFP240, HUF75639, C3M0065090Dを難なくドライブできるようです。
アンプの基板はこんな感じになります。
電源はSiC SBDの電圧降下が大きいので、
シンプルなセンタータップ式の構成で設計してみました。