D級アンプのTHD+N

1kHzの正弦波入力時のスペクトル

D級アンプのTHD+Nをまとめておきます。

こちらの資料が参考になります。

デジタルオーディオ特性の基本 ~THD+N/ ダイナミックレンジ/ SN比/ 周波数特性~

フーリエ級数

全高調波歪

標本化定理

まず、自励式D級アンプの出力波形を考えます。

FETを利用した実際の無信号時のスイッチングノードの波形としては、角の丸い両耳つきのなまった方形波が出力されます。

このなまった方形波(無信号時に800kHzのスイッチング周波数, +-48V)をLCフィルターでfc=50kHz -40dB/decでカットオフ(DA変換)してスピーカーを駆動しています。

結果として、無信号時のLPF通過後の出力としては800kHzのリップル(+-220mv)が漏れてきます。

一方、PWMの制御回路のメインループとしては積分回路(AD変換、fc=42kHz, -20dB/dec, GB積11MHz)、差動増幅回路(GB積11MHz)、コンパレータ(プロパゲーションディレイ7ns程度)、ゲートドライバ(デットタイム 220ns程度)を利用して、無信号時にはZVSさせています。

自励式なので、入力は出力のなまった方形波の抵抗分圧(ゲイン(26dB)に比例)したものを標本化関数として、入力信号を積分回路でAD変換および積分制御(変調された三角波)することになります。

また、自励式の場合スイッチングノードの電圧をフィードバックすることでPSRRも向上しています。

積分回路以降の制御回路はユニティーゲインで、差動増幅回路(LPF通過後の出力電圧で比例制御)およびコンパレータ(電流検出アンプによるLPFのインダクタ電流による定電流制御)で必要な制御信号をフィードバックしています。

自励式のPWMの制御ループなので、スイッチングノードの方形波でサンプリングされた1ビットの電圧情報を積分した三角波をもとにコンパレータでスイッチング時間(デューティ比)を決定していることになります。

したがって、AB級アンプなどの信号増幅とは違って、制御回路および出力回路の波形忠実性はそれほど問題になりません。積分回路によって時間平均およびノイズシェーピングが行われるからです。PWMの精度を決定する積分直線性が最も重要になります。また、制御回路のオペアンプおよびスイッチングノードのFETのスルーレートも影響します。

D級アンプのコモンモードノイズ対策

D級アンプのコモンモードノイズ対策

D級アンプのコモンモードノイズ対策をまとめておきます。

こちらの資料が参考になります。

電磁ノイズが発生するしくみ

ノイズ問題を複雑にする要因

空間伝導と対策

導体伝導とコモンモード

バラン (電子工学)

まず、D級オーディオパワーアンプを外側から見ると、AC電源ライン、オーディオ信号入力ライン、スピーカー出力ラインの3つのラインがつながっています。

したがって、この3つのラインそれぞれに対してコモンモードノイズ対策を施す必要があります。

まず、AC電源ラインの対策ですが、これは市販のインレット一体型のフィルタで十分です。中身はコモンモードチョークやXコンデンサ、Yコンデンサで構成されています。

問題はアース(E)で、日本の場合AC100V(単相3線式)の屋内配線の場合、中性線(N)が接地されているため、LおよびNのラインがEに対してバランスしていません。

また、フィルタアウトされたコモンモードノイズ電流はEラインに流れるため、FGとEの間にアースインダクタなどをかませる必要があります。

ACラインにつながるPFCおよびLLCコンバータなどのスイッチング電源は、非常に大きなコモンモードノイズを発生しますが、最終的にはLLCコンバータの2次側につないだコモンモードフィルタでノイズ電流をFGに落とします。

2次側の先にはD級アンプがつながりますが、D級アンプ自体がスイッチング電源(降圧コンバータ)なので、コモンモードノイズをスピーカー出力に対して放出します。

また、D級アンプ自体はシングルエンドのアンプとしてハーフブリッジを構成するため、入力信号を処理する部分のグランドや信号線にコモンモードノイズが回り込みモード変換によってノーマルモードのノイズとなります。

さらに、D級アンプの筐体内はコモンモードノイズの電界強度が高いため、筐体内の配線にも飛び込みます。

したがって、オーディオ信号の入力ラインはバランス入力にして、平衡ラインレシーバでアンバランス信号に変える必要があります。

スピーカ出力に対しては、スピーカーケーブルがアンテナになるため、コモンモードチョークなどでバランを構成する必要があります。

なぜなら、スピーカーをシングルエンド(アンバランス)で駆動する場合、スピーカーユニットのムービングコイルでモード変換が起こるため、コモンモードノイズが音波として放出されるからです。

D級アンプとスイッチング電源の電流モード制御

D級アンプとスイッチング電源の電流モード制御の関係をまとめておきます。

こちらの資料が参考になります。

スイッチング電源の電流モード制御

Switching Power Supply Current Measurements

まず、ハーフブリッジのD級アンプは降圧コンバータと同じアーキテクチャになります。

降圧コンバータのアーキテクチャ

具体的には、2のスイッチングノードから電圧モードの制御を3のLPFの出力ノードから電流モードの制御をそれぞれかけます。

平均電流モード制御のブロック図

自励式のD級オーディオパワーアンプに適用する場合、電流モードの制御としては平均電流モードで、電流検出アンプからのフィードバックと分圧抵抗からのフィードバックをスイッチングノードと出力のグランドの違いなどを考慮して積分回路とコンパレータの間にPI制御ループを構成する必要があります。

またオーディオパワーアンプの場合、負荷がスピーカーなのでLPFの周波数特性がスピーカーのインピーダンスの影響を受けますが、LPFの出力電流と電圧をフィードバックすることで制御できます。また、電流検出による短絡保護も実現できます。

D級アンプとCTSD ADC

D級アンプとCTSD ADC(連続時間型ΣΔADコンバータ)の関係をまとめておきます。

こちらの資料が参考になります。

連続時間型のΣΔ ADC により、データ・アクイジション用のシグナル・チェーンを簡素化

高い精度を実現する連続時間型のΣΔ ADC【Part 1】高精度のADCを含むシグナル・チェーンの設計時間を短縮する

高い精度を実現する連続時間型のΣΔ ADC【Part 2】シグナル・チェーンの設計者がCTSDについて理解しておくべきこと

高い精度を実現する連続時間型のΣΔ ADC【Part 3】エイリアス除去の能力を備える固有のアーキテクチャ

高い精度を実現する連続時間型のΣΔ ADC【Part 4】駆動が容易な信号入力部とリファレンス入力部、シグナル・チェーンの簡素化が可能に

高い精度を実現する連続時間型のΣΔ ADC【Part 5】 非同期サンプル・レート変換によるデジタル・データ・インターフェースの簡素化

AN-283 シグマ・デルタ ADC/DAC の原理

AN-3977 D級アンプ:基本動作と開発動向

まず、アナログ回路による自励式D級アンプのコンポーネントとデジタル回路によるADCのコンポーネントとの対応関係を整理します。

1次ΣΔADC

CLOCKと1BIT DACに相当するのは、自励式の場合スイッチングノードの方形波になります。

サミングポイントに相当するのは、積分回路を構成するオペアンプの反転入力になります。

デジタルフィルターとデシメータに相当するのは、D級アンプ出力のLCフィルターになります。

アナログD級アンプの場合、量子化ノイズの影響はシングルビット相当になります。

またオペアンプによるアナログ積分回路の場合、1次もしくは2次のCRフィルター(量子化ノイズに対するハイパスフィルター)で構成できます。

オーディオ信号(20-20kHz, +-1.5V程度)の積分回路に用いるオペアンプの仕様としては、FET入力、オープンループゲインが120dB以上、GB積が10MHz程度、スルーレートが20V/us程度のものが扱いやすいです。なぜなら、800KHz程度の方形波を入力して三角波に変換する形で利用するからです。電源電圧(+-5V程度)によっては、コモンモード入力電圧範囲が狭いと使えない場合があります。

積分回路とフィードフォワード補償

積分回路にOPA1656を適用しようとするとカットオフ周波数から先のロールオフが-20dB@10MHzで下げ止まってしまいます。

データシートによるとOPA1656はフィードフォワードを使用していて、1MHzから20MHzにかけて位相がうねっていることがわかります。

OPA1656の機能ブロック図
OPA1656の利得および位相対周波数特性

比較のためにOPA1652の位相特性をあげておきます。

OPA1652の利得および位相対周波数特性

いろいろ調べていくと、積分回路のアプリケーションでは位相を進めるコンデンサと積分用のフィードバックコンデンサを抵抗で分離する方法がこちらのアプリケーションノートに載っていました。

LB-2 Feedforward Compensation Speeds Op Amp

高速積分回路

Bob Widlarが書いたアプリケーションノートのようですが、半世紀を経た現在でも役に立ちます。

積分回路の低周波数特性 その6

T型フィルタ(2次CRハイパスフィルタ)による積分回路の積分非直線性(INL)の最適化設計の続きです。

オペアンプMUSES8920の定数を見直します。

MUSES8920 Spiceモデル

極配置の計算は、2次CRハイパス・フィルタ計算ツールを利用しています。

LTSpiceによるシミュレーションモデルとAC分析です。

2次CR積分回路モデル(MSES8920)
2次CR積分回路AC分析(MUSES8920: 緑:反転入力(LPF), 青:1次CR, 赤:出力)

まず、MUSES8920の入力インピーダンスは5.2TΩ(Typ.)、オープンループゲインは135dB(Typ.)、GB積11MHzとなっています。

ほぼOPA2134と同等のスペックなので、積分回路の定数は、C1=C2=470pF, R1=10kΩでよいようです。

実際にMUSES8920を入手して音を確認してみると、エージングに3時間ほどかかるようです。音質的にはOPA2134に比べて聴きやすく、より広帯域な感じです。どちらも甲乙つけがたい感じなので、好みで決めるしかなさそうです。

スイッチング電源のコモンモードフィルタの評価

スイッチング電源のコモンモードフィルタ(SNA-06-223-T)を入手したので、評価をまとめておきます。

こちらが、実際のD級アンプの電源(出力+-48V)(上からPFC、LLCコンバータ, SNAの構成) に組み込んだところです。

SNA-06-223-T

回路構成をみると、COMに接地コンデンサは付いていません。

SNA-06-223(回路構成)

コモンモードの減衰特性は100kHz-1MHzで-40dB程度となっています。

SNA-06-223(減衰特性)

効果としては十分なようで、価格も手ごろなので、おすすめです。

積分回路の低周波数特性 その5

T型フィルタ(2次CRハイパスフィルタ)による積分回路の積分非直線性(INL)の最適化設計の続きです。

オペアンプOPA1656をの定数を見直します。

極配置の計算は、2次CRハイパス・フィルタ計算ツールを利用しています。

LTSpiceによるシミュレーションモデルとAC分析です。

2次CR積分回路モデル(OPA1656)
2次CR積分回路AC分析(OPA1656: 出力)
2次CR積分回路AC分析(OPA1656: 反転入力)

まず、OPA1656の入力インピーダンスは6TΩ(=R2)、オープンループゲインは150dBとなっています。そこで、R1の値としてR2/R1=142dBとなるように、470Ωを選択します。

またGB積は53MHzあるので、C1=C2=2200pFとすると、p1=12uHz, p2=154kHzとなり、積分線形性帯域をOPA1656の性能に見合った範囲に伸ばせます。

また、反転入力から見たLPF特性はfc=364kHz<812kHz/2となるため、自励発振周波数(オーバーサンプリング周波数)に対しても、適切な値になります。

最後にD級アンプ全体の特性をLTSpiceシミュレーションで、確認しておきます。

D級アンプ回路図(OPA1656)
D級アンプ出力FFT(無信号)
D級アンプ出力FFT(1V, 20kHz正弦波入力)

D級アンプ全体(ΔΣADC(812kHz))としては、オーディオ帯域(20-20kHz)のサンプリング周波数(48kHz)に対して、812/48=16倍程度のオーバーサンプリング相当となります。

また、有効ビット数としては、ENOB=(108-1.76)/6.02=17.6>16ビット相当となっています。

また、ENOB=16bitのときのSINAD(S/N)は、16*6.02+1.76=98.08dBとなるので、高能率のスピーカーで評価する必要があります。

積分回路の低周波数特性 その4

まとめとして、T型フィルタ(2次CRハイパスフィルタ)による積分回路の積分非直線性(INL)の最適化設計を検討します。

オペアンプとしてはOPA2134, OPA1656を検討します。

極配置の計算は、2次CRハイパス・フィルタ計算ツールを利用しています。

LTSpiceによるシミュレーションモデルとAC分析もあげておきます。

2次CR積分回路モデル(OPA2134)
2次CR積分回路AC分析(OPA2134)
2次CR積分回路モデル(OPA1656)
2次CR積分回路AC分析(OPA1656)

まず、積分対象範囲の周波数は20-20kHzのオーディオ帯域なので、2つの極配置としては20Hzより下と20kHzより上にそれぞれ配置することがフィルタの設計目標になります。通常2つあるCの値は同じにします。2つめの抵抗値はオペアンプの非反転入力の入力インピーダンス(FET入力オペアンプの場合10TΩ程度)になります。

C1=470pF, C2=470pF, R1=10kΩ, R2=10TΩとすると極の値はそれぞれ、p1=34uHz, p2=34kHzとなります。

この値で積分回路の出力の20-20kHzの直線性 をAC分析で確認するとほぼ120dB/3decとなります。

ポイントとしては、低域の限界はオペアンプのオープンループゲイン(DCゲイン)に依存するため、適切な抵抗値を設定して直線性のよい部分が20Hzあたりになるよう調整します。

また、高域の限界はオペアンプのGB積に依存するため、容量値を適切に設定して直線性のよい部分が20kHzあたりになるよう調整します。

OPA1656の場合GB積が大きいのとオペアンプ回路の特性のため、20kHzよりも上側は1次の傾斜になりますが、帯域外のノイズシェーピングの形状になるようなので特段影響はないようです。

最後に、OPA2134で実際のD級アンプで音を確認したところ、良好な結果が得られています。

積分回路の低周波数特性 その3

積分回路の低周波数特性の改善回路として、バンドストップフィルタによる回路を実装しましたが、ノイズシェーピングとしては1次特性(20dB/Dec)になってしまい、2次特性(40dB/Dec)に比較して、20k-20Hz(3Dec)の帯域では、S/Nが60dB@20Hz程度悪化します。

そこで今度は、多重帰還型フィルタを検討してみます。

以下のリンクが参考になります。

アクティブ・フィルタの位相関係

TNJ-050:LTspiceでアクティブ・フィルタのノイズ解析(中編) サレン・キー型と多重帰還型アクティブ・フィルタを比較し、ローノイズ化を図るためにLT1128を使ってみる

オペアンプ多重帰還型ハイパス・フィルタ計算ツール

まず、多重帰還型フィルタのシミュレーションです。

多重帰還型フィルタ(回路図)
多重帰還型フィルタ(AC分析)

緑(出力)がノイズシェーピングに相当しますが、fc=48kHzまでほぼ直線的に増加した後、-40dB@4MHzまでさがり、10MHz付近に跳ね返りが生じます。

青(入力)のLPFは肩特性に段が付くのと、4-10MHzに跳ね返りが生じます。

比較のために、通常のT型フィルタのシミュレーションもあげておきます。

T型フィルタ(回路図)
T型フィルタ(AC分析)

緑(出力)10Hz以下の特性はオープンループゲインの上限によるものです。fc=70kHzまで、2次特性で上昇し、-50dBで平坦になります。

青(入力)のLPFも跳ね返りがなく10MHz超まできれいなカーブになります。

つぎに、それぞれのフィルタ回路を実際のD級アンプに組み込んだシミュレーションを示します。

多重帰還型積分回路によるD級アンプ
多重帰還型積分回路によるD級アンプのS/N

多重帰還型積分回路によるD級アンプ(ゲイン26dB)の20kHz, 1V正弦波入力による出力のノイズフロアは-60dB程度になります。

T型積分回路によるD級アンプ
T型積分回路によるD級アンプのS/N

T型積分回路によるD級アンプ(ゲイン26dB)の20kHz, 1V正弦波入力による出力のノイズフロアは-80dB程度になります。

結論としては、単純なT型積分回路でオペアンプの特性に合わせた構成が最もよいようです。