D級アンプにおけるオペアンプの音質への影響 その5

自励発振式のD級アンプにおける2回路オペアンプの積分回路でのTHD+NとVosの評価をまとめておきます。

こちらの資料を参考にしています。

ppmレベルの精度のオペアンプ回路は実現できるのか?

一方、オーディオ・アンプに相当するオペアンプ製品の場合、かなり安価であるのにもかかわらず、歪み性能が非常に高いものがあります。

但し、オフセットと1/fノイズを抑えるようには設計されていないため、それらの性能は良好ではありません。

また、この種のアンプも、おそらく10kHzを超える領域では、高い歪み性能を発揮することはできないはずです。

ppmレベルの精度のアンプ回路は実現できるのか?

そこで、THD+NとVosの関係に着目してみます。

データシートの値とD級アンプ・アプリケーションでのVosの実測値です。

ppm レベルの精度を得るために必要なオペアンプのパラメータの比較

THD+Nの周波数特性のグラフをデータシートより引用します。

OPA2227

OPA2227

ADA4001-2

ADA4001-2

ADA4075-2

ADA4075-2

AD8672

AD8672

OPA2134

OPA2134

LM4562

LM4562

LT1213

LT1213

LT1113

LT1113

THD+Nは1kHzの値がよくても10kHzから20kHzにかけて2-10倍程度上昇するようです。

また、VosとTHD+Nはトレードオフになるようです。

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D級アンプにおけるオペアンプの音質への影響 その4

自励発振式のD級アンプにおける2回路オペアンプの積分回路での精度の評価をまとめておきます。

こちらの資料を参考にしています。

ppmレベルの精度のオペアンプ回路は実現できるのか?

図と表を引用します。

オペアンプの誤差源
ppm レベルの精度を得るために必要なオペアンプの仕様
ppm レベルの精度を得るために必要なオペアンプのパラメータの比較

比較したオペアンプは以下の11種です。

OPA2227

ADA4001-2

ADA4075-2

AD8672

OPA2134

LM4562

MUSES8920

LT1057

LT1213

NJM2068

LT1113

積分回路は容量を介してFBをかけるため、電源や電流に関連するパラメータ(in, Ib, PSRR, Isc)の影響が大きくなると思われます。

実際のD級アンプで試した積分器に適したオペアンプの中では、ADA4075を基準として、OPA2227, ADA4001-2, ADA4075-2, AD8672, OPA2134, LM4562あたりでしょうか。

TL431によるオプトカプラ・ドライバ回路の試作

D級アンプで使用している絶縁型LLCコンバータでTL431とオプトカプラ(6N136, TLP559, TLP2304)を用いた回路の試作を行ったのでまとめておきます。

TLP2304とTL431によるフィードバック回路

写真中央下部のSOIC8の変換基板がTLP2304でその右側のTO-92がTL431です。

オプトカプラも種類がいろいろありますが、ここではLLCコンバータがfsw=100kHzなので、1MbpsのオープンドレインのPhoto IC(UCC256404のRVCC=13Vで駆動)を選択しています。

同じ定数で、TLP2304, TLP559, 6N136が問題なく動作しました。プロパゲーションディレイと入力容量がそれぞれ異なるので、理論的には電源のトランジェントに影響があるはずですが、D級アンプの出力の聴感で判断するのは難しいと思います。

なお、東芝の6N136, TLP559は生産終了予定となっています。

また、オプトカプラの経年劣化(CTRの低下)が問題になる場合は、Si87xx(Si8710CC, Si8710CD)を選択しますが、現在のところ半導体不足の影響で入手困難です。

D級アンプにおけるオペアンプの音質への影響 その3

自励発振式のD級アンプにおける2回路オペアンプの積分回路でのノイズ密度の評価をまとめておきます。

こちらの資料を参考にしています。

最適ノイズ性能を得るための低ノイズ・アンプ選択の手引き

オペアンプを使った積分器

低ノイズ設計に適したオペアンプの選択
性能指標(Rs,op)の計算

プロットしたオペアンプは以下の9種です。

OPA2227

ADA4001-2

ADA4075-2

AD8672

OPA2134

LM4562

LT1057

LT1213

LT1113

Rs,opが1MΩを超えるJFET入力オペアンプ(LT1057, ADA4001-2, OPA2134)は1MΩの軸上にプロットしています。

また、基準となる積分回路の信号源抵抗は2.7k||56k=2.6kΩ, ジョンソン・ノイズ6.4nVrtHzとして、プロットしています。

実際のD級アンプで試した積分器に適したオペアンプの中で、低ノイズ設計に適したオペアンプは、LM4562, ADA4075-2, OPA2227, AD8672, LT1113となるようです。

D級アンプにおけるオペアンプの音質への影響 その2

自励発振式のD級アンプにおける2回路オペアンプ(積分回路と減算回路)のVs=+-5Vでの音質への影響をまとめておきます。

D級アンプ用オペアンプ比較表 その2

比較対象のオペアンプは以下の11種です。

OPA2227

ADA4001-2

ADA4075-2

AD8672

OPA2134

LM4562

MUSES8920

LT1057

LT1213

NJM2068

LT1113

比較表のデータシートの値(GB積、スルーレート、オープンループゲイン、CMRR, PSRR, 入力オフセット電圧および温度ドリフト、消費電流)はVs=+-15V, Vcm=0V, Ta=25degCのTypicalでまとめています。

実際の動作条件はVs=+-5Vで、回路構成としては積分回路(LPF)と減算回路(比例制御)で利用しています。

また、実際のD級アンプに実装した際の出力電圧のオフセットの実測値(L, R)から算出した絶対値の平均でソートしています。

積分精度への影響が大きい、オープンループゲインとオフセットのよいオペアンプを選択していますが、実際の回路での電圧オフセットの実測値は、必ずしもデータシートの値とは比例しないようです。

D級アンプの電圧オフセットの実測値がよいオペアンプは、OPA2227, ADA4001-2, ADA4075-2, AD8672でした。

TL431によるオプトカプラ・ドライバ回路 その2

絶縁型LLCコンバータなどで2次側の電圧を1次側にフィードバックするためのTL431とオプトカプラの位相補償をまとめておきます。

以下の資料が参考になります。

The TL431 in the Control of Switching Power Supplies

The TL431 in a Modified Type 2 Configuration

DC-DC Converters Feedback and Control

Modeling and Loop Compensation Design of Switching Mode Power Supplies

Demystifying Type II and Type III Compensators Using Op-Amp and OTA for DC/DC Converters

The TL431 in the Control of Switching Power Suppliesからスライドを引用します。

How is Regulation Performed?

絶縁型DC-DCコンバータ用ICのデータシートや、アプリケーションノート、設計ツールでもTL431とOptocouplerの位相補償についてはほとんど触れていないので、設計に際しては基礎的なところから理解しておくことが必要です。

制御と回路の基礎知識があれば順を追って理解できる資料だと思いますが、いかがでしょうか。

TL431によるオプトカプラ・ドライバ回路

絶縁型LLCコンバータなどで2次側の電圧を1次側にフィードバックするためのTL431とオプトカプラ(MOC207)による回路をまとめておきます。

以下の資料が参考になります。

Shunt Regulator Design Procedures for Secondary Feedback Loop in Isolated Converter

Setting the Shunt Voltage on an Adjustable Shunt Regulator

Compensation Design With TL431 for UCC28600

まず、LTspiceによる回路図と過渡応答を示します。

TL431とMOC207による2次側電圧FB回路
TL431とMOC207による2次側電圧FB回路の過渡応答

設計手順としては以下の通りです。

  1. Vref=2.495Vになるように分圧回路を設定
  2. フォトダイオードとTL431へのバイアス電流を設定
  3. TypeIIの位相補償回路を設定

2次側はフォトダイオードのローサイドにシャントレギュレータを配置する構成になります。

1次側はコントローラのFBピンの仕様に応じてオープンコレクタ出力をエミッタ共通かコレクタ共通の構成になります。

D級アンプにおけるオペアンプのコンパレータ動作の要件

電圧モードの自励発振式D級アンプの積分回路に使用するオペアンプをコンパレータ(シュミットトリガ)として動作させると、使用できないオペアンプもあるので設計上の考慮事項をまとめておきます。

こちらのリンクが参考になります。

オペアンプをコンパレータとして使用する際のヒント

オペアンプをコンパレータとして構成する場合の考慮事項:

  1. 差動入力クランプ・ダイオード(背面結合ダイオード)の有無
  2. 入力同相モード電圧
  3. 伝播遅延
  4. 過負荷回復時間
  5. スルー・レート

例としてLT1213のデータシートから図表を引用します。

LT1213の等価回路図

まず、等価回路図で差動入力クランプ・ダイオードがないことを確認します。-INがQ1のベースに、+INがQ2のベースに直結されていて、クランプダイオードがありません。

次に、入力同相モード電圧は、V+-1.5VからV-の範囲にすべきと記載があります。

LT1213のコンパレータ応答時間とオーバードライブ電圧

過負荷回復時間に関しては、伝播遅延は17ns、オーバードライブ電圧に対するコンパレータの応答時間の変化も載っています。

LT1213の積分回路におけるコンパレータ動作のアプリケーション波形

アプリケーション波形としては、Vs=+-5Vにおいて、オーバードライブが+-50-10mVの矩形波の入力(緑)に対して、+-280mVの三角波(赤)を1.8V/usのスルーレートで出力して、無信号時は自励発振しています。

結論として、差動入力クランプ・ダイオードがないことの確認、入力同相モード電圧範囲、スルーレートに注意が必要となります。

また、高精度オペアンプはクランプダイオードを実装しているものが多いようです。

D級アンプにおけるオペアンプの音質への影響

自励発振式のD級アンプにおける2回路オペアンプ(積分回路と減算回路)のVs=+-5Vでの音質への影響をまとめておきます。

D級アンプ用オペアンプ比較表

比較対象のオペアンプは以下の8つです。

LM4562

MUSES8920

LT1213

NJM2068

OPA2134

ADA4075-2

ADA4001-2

LT1057

比較表のデータシートの値(GB積、スルーレート、オープンループゲイン、入力オフセット電圧および温度ドリフト、電圧ノイズ密度(10Hz)、消費電流)はVs=+-15V, Vcm=0V, Ta=25degCのTypicalでまとめています。

実際の動作条件はVs=+-5Vで、回路構成としては積分回路(LPF)と減算回路(比例制御)で利用しています。

また、実際のD級アンプに実装した際の出力電圧のオフセットの実測値をL, Rおよび絶対値の平均もまとめています。

最後に、オペアンプの実売価格を参考としてあげています。

パラメータの選定に関して、D級アンプ全体の音質への影響としては低周波での積分回路におけるオープンループゲイン、入力電圧オフセット、電圧ノイズ密度が支配的と考えています。また、入力電圧オフセットの温度ドリフトおよび温度上昇に影響する消費電流も変動要素として支配的と考えています。

結論として、これら8つのオペアンプで音質的に大きな変化がある回路ではないですが、それでも実際の聴感で判別できる程度の差異はあります。

傾向と特徴をあげておきます。

  1. オープンループゲインの増大に伴い、音の躍動感が増す。(LM4562, MUSES8920, LT1213)
  2. 電圧ノイズ密度の減少に伴い、音の奥行き感が増す。(ADA4075-2)
  3. GB積の大きなオペアンプで、最終的な電圧オフセットが大きくなるものがある。(LT1213, NJM2068)

電流モード自励発振式D級アンプとUCD

電流モード自励発振式D級アンプについてまとめておきます。

こちらを参考にしています。

グリーン・エレクトロニクス No.7 D級パワー・アンプの回路設計

最初の自作!Hypex Ucdパワーアンプ

LT1713/LT1714

ヒステリシスを用いた構成例

Differential amplifier

まず、2つの方式のLTspiceでのシミュレーションをあげておきます。

電流モード自励発振式D級アンプの回路図

電流モード自励発振式の回路をオペアンプ(LT1213)と電流検出アンプ(LT1995), コンパレータ(LT1713), ゲートドライバ(Si8244)で構成しています。LPFのインダクタが積分器(電圧を時間で積分すると電流)となっています。電流検出アンプのゲインとコンパレータのヒステリシスので自励発信周波数が調整可能です。差動アンプによる比例制御と積分回路による積分制御で二重の制御ループになっています。

電流モード自励発振式D級アンプの無信号入力時のFFT

積分回路でノイズシェーピングを掛けています。自励発振周波数は1.3MHzです。

電流モード自励発振式D級アンプの1V 10kHz正弦波入力時のFFT

ゲインは23dBとなります。

UCDの回路図

UCDのLTP(差動増幅回路)によるディスクリートの回路図です。LPFのインダクタの出力電圧に位相補償を掛けて、LTPにフィードバックしています。LTPで入力とLPFインダクタ出力の三角波を差動合成して得た矩形波で直接MOSFETを駆動しています。

UCDの無信号入力時のFFT

自励発振周波数は347kHzとなっています。

UCDの1V 10kHz正弦波入力時のFFT

ゲインは19dBとなっています。

D級アンプの場合、入力信号を線形増幅していない(積分回路で時間情報に変換(サンプリング)して、PWMで出力を合成している)ので、オーディオ用途の場合、オペアンプの特性としてはDCゲインと出力オフセットが支配的になります。

また、LPFのインダクタの電流検出を利用すれば、位相遅れ自体は一次系となるため、出力電圧の周波数特性の制御は比較的容易です。

AB級アンプとは必要な要素技術が大きく異なる(増幅回路というよりもアナログ・サンプリングとPWMによる制御付き電源回路)ところに注意が必要です。