LT1166による3段ダーリントンBJTアンプの最適バイアス抵抗その2

2N5551, 2N5401, TTC004B, TTA004B, TTC5200, TTA1943を用いた、LT1166による3段ダーリントン(Triple)BJTアンプの最適バイアス抵抗のまとめです。

3段ダーリントンBJTアンプの回路図

まず、LTSpiceによる回路図をしめします。

結論としては、プリドライバ段およびドライバ段のクロスオーバー時の電流波形とピーク時のコレクタ損失で決定しています。

アイドル時のプリドライバ段のエミッタ抵抗は470Ω(5.2mA)、ドライバ段のエミッタ抵抗は220Ω(5.7mA)、パワー段のエミッタ抵抗を0.22Ω(91mA)としています。

1.5V正弦波入力時のプリドライバ段、ドライバ段、パワー段のエミッタ電流

最大出力時のプリドライバ段とドライバ段のエミッタ抵抗を流れる電流波形のディップがなめらかになっています。

エミッタ抵抗を大きくするとこのディップが深くなって、波形が乱れます。

1.5V正弦波入力時のプリドライバ段、ドライバ段、パワー段のコレクタ損失

最大出力次のプリドライバ段とドライバ段のコレクタ損失の波形です。

プリドライバ段は上下非対称の正弦波となります。

また、ドライバ段はパワー段と同様の出力時のピークが凹んだ半波状の波形となります。

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LLCコンバータのLTspiceシミュレーションその3

LLCコンバータ(LCS705)の周波数制御のビヘイビアモデルをLTSpiceでシミュレーションする方法をまとめておきます。

こちらのリンクが参考になります。

HiperLCS Data Sheet

B sources (complete reference)

ビヘイビアで簡単Spiceシミュレーション②

LTspice入門:デジタル素子によるシミュレーション

LTSpiceモデルのポイントとしては、ビヘイビア電源に必要な関数を定義しています。

.param CVI=0.024 DTIME=420n VGATE=10
.func itof(i)=CVI*i
.func tper(f)= time/f
.func saw(f)= tper(f)-int(tper(f))
.func pwm(f)=if(saw(f) , VGATE, 0)
.func dly(f)=delay(pwm(f), DTIME)

itof(i): 周波数制御信号(LCS705のFBピン)の入力電流(A)を周波数制御電圧(V)に変換する。

tper(f): 周波数(Hz)を周期(sec)に変換

saw(f): 周期からのこぎり波(0-1V)を生成

pwm(f): のこぎり波から矩形波(0-10V)を生成

dly(f): デッドタイムだけ遅れた波形を生成

pwm(f)とdly(f)からANDとNORでデッドタイムを反映したハイサイドおよびローサイドの駆動波形を生成しています。

LTSpiceの回路図です。2次側の電圧検出をシャントレギュレータ(TL431)で行い、オプトカプラ(TLP2304)を利用して、1次側のFBピン(LCS705)を駆動しています。

LTSpiceの過渡解析の結果です。

2次側出力電圧(緑)、

FB電流(青)

をプロットしています。

FB電流が500uA-400uA(120kHz-100kHz)に変化して、出力電圧が制御されていることがわかります。

400W BTL自励式D級アンプの設計

LTC1992-1による400W BTL自励式D級アンプの設計をまとめておきます。

ゲイン20倍のハーフブリッジ自励式D級アンプ(100W)2chを平衡入力できるように完全差動アンプ(LTC1992-1)で駆動するだけです。

400W BTL自励式D級アンプの回路図
400W BTL自励式D級アンプの過渡解析の結果(緑:出力電圧、青:出力コモンモード電圧、赤:出力)
1.4V 10kHz 正弦波入力時の出力電圧のFFT

2つのレッグの互いに反転された矩形波がクロックになるので、3レベルPWMになるようです。

D級アンプのデメリット解消と音質改善

D級オーディオパワーアンプにおけるデメリットの解消方法と音質改善につてまとめておきます。

以下のリンクが参考になります。

アプリケーションノート 3977 D級アンプ:基本動作と開発動向

ZVS自励発振式電流モードD級アンプ

最初に、一般的なD級オーディオパワーアンプの設計課題をあげておきます。

  1. PSRRの向上
  2. 周波数特性の向上
  3. スイッチングノイズ対策(EMI)の向上

まず、PSRRの向上に関しては、スイッチングノード(プリフィルタ)のフィードバックが必要です。

実際の設計としては、電圧モードの自励発振式(ΣΔ変調)での対応が容易です。

次に、周波数特性の向上に関しては、ポストフィルタのフィードバックが必要です。

実際の設計としては、電流モード(インダクタ電流検出)の他励式として状態フィードバックによるPI制御での対応が容易です。

最後にEMIの向上に関しては、ZVS、CMC、スペクトラム拡散(自励発振式のPDM)での対応が容易です。

BTLであれば、フィルタレス変調方式(3レベルPWM)もありますが、より複雑になります。

最近の薄型テレビやスマートフォンなどはICによるD級アンプですが、音質に不満はありません。

また、試作したZVS自励発振式電流モードD級アンプの音質も、電源からトータルで回路設計を詰めたので、十分な基本性能(SNR, 周波数特性)に到達しています。

スペックで評価できない動的な聴感としては、トリオジャズのベース、ピアノ、キック、ブラシ、シンバル、ミュージシャンのハミングがUSBインタフェース(DAC)のヘッドホン出力で聴くよりもリアルにスピーカー(8cm/38cm)で音楽を体感できます。

スイッチング電源はオーディオに不向きなのか?

オーディパワーアンプにおけるスイッチング電源のノイズ対策をまとめておきます。

以下のリンクが参考になります。

スイッチング・レギュレータのノイズを包括的に理解する

PFC+LLC+CMCによるオーディオ用スイッチング電源

まず、3つのノイズに対する対応は以下の通りです。

  1. リップルノイズは、フィルタ(LC)で対応します。
  2. 広帯域ノイズは、回路設計(IC)やプリント基板のレイアウトで対応します。
  3. スパイクノイズは、ZVS(BCM PFC, LLC DC/DC)で対応します。

一方、ノイズを発生するスイッチング電源側の対策だけでは不十分です。

特に、スイッチング電源の基板やケーブルから伝導および放射されるコモンモードノイズ対策としては、アンプ基板の入力信号の伝送方式で対応します。

具体的にはアンプの入力部をバランス入力およびラインレシーバ(差動増幅)にすることで対応します。

また、コモンモードループの対策も重要で、アースインダクタやCMCで対応します。

コンデンサインプット電源は理想の電源か?

コンデンサインプット電源の考察をまとめておきます。

以下のリンクが参考になります。

力率改善回路(PFC)

SiC SBDとCRCフィルタによるコンデンサインプット電源

オーディオパワーアンプ用の電源としては、商用電源(100V 50/60Hz AC)をトランスで降圧して、ダイオードブリッジで整流し、平滑コンデンサで出力電圧のリップルを平滑する正負電源が一般的です。

これまでも理想ダイオード(MOSFET)、SiC SBD、CRフィルタ、LRフィルタなどを組み合わせたものを試作してきました。

ところが、試作の結果として、スイッチング素子(ダイオードブリッジ)を変えるとスイッチングノイズ(リカバリノイズ)は下がりますが、それ以外のノイズは下がりません。

なぜなら、コンデンサインプット電源はスイッチング周波数が100/120Hzのスイッチング電源に他ならないからです。

いくら物量を投入してリップル電圧を下げたとしても、商用電源からみた力率は低下し、電流インパルスによる電流高調波の影響は避けられません。

しかもスイッチング周波数がオーディオ周波数帯域の低域にあるため、パッシブフィルタによる対策が容易ではありません。

たとえば、仮に2次CRローパス・フィルタの構成を取るとすると、0.33Ω/10000uFをカスケードして、fc=48Hzとなります。-12dB@100Hz程度になります。

これが、fsw=100kHzのスイッチング電源であれば、0.1Ω/33uFでfc=48kHz, -12dB@100kHzが容易に得られます。実際には小型のパワーインダクタが使えるので、LRフィルタで2倍の減衰率が容易に得られます。

また、PFCによる力率改善の効果は特に低域の聴感で顕著になります。

コンデンサインプット電源の場合、商用電源から低い力率と周波数で切り離されてしまい、電解コンデンサのDC電圧が後段の実質的な駆動力になります。

一方、PFCで400Vに昇圧してからLLCコンバータで降圧する形では、高い力率と周波数で商用電源のパワーが伝達されます。

つまり、タンクで供給するか、ポンプで供給するかの違いになります。

実際の設計では、スイッチング電源のトレードオフはコモンモードノイズにあるので、こちらの対策が大事になります。

電源ケーブルとインシュレータで音が変わるのはオカルトか?

こちらの資料が参考になります。

AN-358 ノイズとオペアンプ回路

TINA-TITMによるオペアンプ回路設計入門 (第12回) 2.2 入力バイアス電流

まず、どれくらいの大きさの変化がノイズ(最小の信号)として、電源、ケーブル、振動に起因するのかを定量的に理解しておく必要があります。

また、現象としてわかりやすいのは、MLCCやコイル(トランス)の鳴きですが、機械的な変位(振動)が容量の変位を引き起こして電流が変動することを理解しておく必要があります。

代表的な干渉ノイズ発生源

つぎにオペアンプの入力バイアス電流の大きさを考えてみます。

代表的なオペアンプの入力バイアス電流の範囲

オーディオ用のオペアンプだとおよそnAからpAの範囲になります。オープンループゲインが120dBのオペアンプで10kΩの抵抗を利用して増幅回路を実装すれば、容易にuVの電圧信号として知覚できることになります。

一方で、スピーカーの能率が84dBで、アンプの増幅率が26dBとすれば、-110dBのノイズフロアより小さな1uV(-120dB)の信号は埋もれてしまいます。

ノイズは一定の強度で常に存在しているので、十分なPSRRやCMRRを達成して必要な信号帯域を確保することで、信号増幅は成立しています。

また、オーディオ再生に際して、オーディオ信号自体を電気信号から機械信号(空気の粗密波)に変換しているので、可聴帯域の機械振動による相互変調(共振)は、大きさのある機械としてオーディオシステムを実装している以上、物理的に不可避です。

D級アンプにおけるオペアンプの音質への影響 その6

自励発振式のD級アンプにおける2回路オペアンプの積分回路でのIcmrr(IbとVcmの傾き)の評価をまとめておきます。

こちらの資料を参考にしています。

ppmレベルの精度のオペアンプ回路は実現できるのか?

ICMRR

入力信号のコモンモード・レベルに関連するのは、入力バイアス電流と、電源に伴うその変化であるICMRRです。
図1に示したように、ICMRRは4つに細分化されます。記号の折れ線は、バイアス電流が電圧に応じて可変であり、線形でない可能性があるということを表しています。2つの入力のバイアス電流とレベルへの依存度は異なる可能性があります。また、各入力は、両方の電源に応じて独立して変化します。ICMRR(合算することによりバイアス電流が決まります)により、アプリケーション抵抗の値との乗算で決まる電圧ノイズが生成され、回路全体のオフセット電圧が増加します。

ppmレベルの精度のアンプ回路は実現できるのか?

データシートのグラフから算出したIcmrrをまとめておきます。

ppm レベルの精度を得るために必要なオペアンプのパラメータの比較

IbとVcmのグラフをデータシートより引用します。

OPA2227

OPA2227

ADA4001-2

ADA4001-2

ADA4075-2

ADA4075-2

OPA2134

OPA2134

LT1057

LT1057

LT1213

LT1213

LT1113

LT1113

JFT入力のオペアンプはIbが小さいので問題になりませんが、BJT入力のオペアンプは注意が必要です。

なお、OPA2227の値が小さいのは入力バイアス電流を内部で補償しているからのようです。

D級アンプにおけるオペアンプの音質への影響 その5

自励発振式のD級アンプにおける2回路オペアンプの積分回路でのTHD+NとVosの評価をまとめておきます。

こちらの資料を参考にしています。

ppmレベルの精度のオペアンプ回路は実現できるのか?

一方、オーディオ・アンプに相当するオペアンプ製品の場合、かなり安価であるのにもかかわらず、歪み性能が非常に高いものがあります。

但し、オフセットと1/fノイズを抑えるようには設計されていないため、それらの性能は良好ではありません。

また、この種のアンプも、おそらく10kHzを超える領域では、高い歪み性能を発揮することはできないはずです。

ppmレベルの精度のアンプ回路は実現できるのか?

そこで、THD+NとVosの関係に着目してみます。

データシートの値とD級アンプ・アプリケーションでのVosの実測値です。

ppm レベルの精度を得るために必要なオペアンプのパラメータの比較

THD+Nの周波数特性のグラフをデータシートより引用します。

OPA2227

OPA2227

ADA4001-2

ADA4001-2

ADA4075-2

ADA4075-2

AD8672

AD8672

OPA2134

OPA2134

LM4562

LM4562

LT1213

LT1213

LT1113

LT1113

THD+Nは1kHzの値がよくても10kHzから20kHzにかけて2-10倍程度上昇するようです。

また、VosとTHD+Nはトレードオフになるようです。

D級アンプにおけるオペアンプの音質への影響 その4

自励発振式のD級アンプにおける2回路オペアンプの積分回路での精度の評価をまとめておきます。

こちらの資料を参考にしています。

ppmレベルの精度のオペアンプ回路は実現できるのか?

図と表を引用します。

オペアンプの誤差源
ppm レベルの精度を得るために必要なオペアンプの仕様
ppm レベルの精度を得るために必要なオペアンプのパラメータの比較

比較したオペアンプは以下の11種です。

OPA2227

ADA4001-2

ADA4075-2

AD8672

OPA2134

LM4562

MUSES8920

LT1057

LT1213

NJM2068

LT1113

積分回路は容量を介してFBをかけるため、電源や電流に関連するパラメータ(in, Ib, PSRR, Isc)の影響が大きくなると思われます。

実際のD級アンプで試した積分器に適したオペアンプの中では、ADA4075を基準として、OPA2227, ADA4001-2, ADA4075-2, AD8672, OPA2134, LM4562あたりでしょうか。