D級アンプにおけるオペアンプのコンパレータ動作の要件

電圧モードの自励発振式D級アンプの積分回路に使用するオペアンプをコンパレータ(シュミットトリガ)として動作させると、使用できないオペアンプもあるので設計上の考慮事項をまとめておきます。

こちらのリンクが参考になります。

オペアンプをコンパレータとして使用する際のヒント

オペアンプをコンパレータとして構成する場合の考慮事項:

  1. 差動入力クランプ・ダイオード(背面結合ダイオード)の有無
  2. 入力同相モード電圧
  3. 伝播遅延
  4. 過負荷回復時間
  5. スルー・レート

例としてLT1213のデータシートから図表を引用します。

LT1213の等価回路図

まず、等価回路図で差動入力クランプ・ダイオードがないことを確認します。-INがQ1のベースに、+INがQ2のベースに直結されていて、クランプダイオードがありません。

次に、入力同相モード電圧は、V+-1.5VからV-の範囲にすべきと記載があります。

LT1213のコンパレータ応答時間とオーバードライブ電圧

過負荷回復時間に関しては、伝播遅延は17ns、オーバードライブ電圧に対するコンパレータの応答時間の変化も載っています。

LT1213の積分回路におけるコンパレータ動作のアプリケーション波形

アプリケーション波形としては、Vs=+-5Vにおいて、オーバードライブが+-50-10mVの矩形波の入力(緑)に対して、+-280mVの三角波(赤)を1.8V/usのスルーレートで出力して、無信号時は自励発振しています。

結論として、差動入力クランプ・ダイオードがないことの確認、入力同相モード電圧範囲、スルーレートに注意が必要となります。

また、高精度オペアンプはクランプダイオードを実装しているものが多いようです。

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D級アンプにおけるオペアンプの音質への影響

自励発振式のD級アンプにおける2回路オペアンプ(積分回路と減算回路)のVs=+-5Vでの音質への影響をまとめておきます。

D級アンプ用オペアンプ比較表

比較対象のオペアンプは以下の8つです。

LM4562

MUSES8920

LT1213

NJM2068

OPA2134

ADA4075-2

ADA4001-2

LT1057

比較表のデータシートの値(GB積、スルーレート、オープンループゲイン、入力オフセット電圧および温度ドリフト、電圧ノイズ密度(10Hz)、消費電流)はVs=+-15V, Vcm=0V, Ta=25degCのTypicalでまとめています。

実際の動作条件はVs=+-5Vで、回路構成としては積分回路(LPF)と減算回路(比例制御)で利用しています。

また、実際のD級アンプに実装した際の出力電圧のオフセットの実測値をL, Rおよび絶対値の平均もまとめています。

最後に、オペアンプの実売価格を参考としてあげています。

パラメータの選定に関して、D級アンプ全体の音質への影響としては低周波での積分回路におけるオープンループゲイン、入力電圧オフセット、電圧ノイズ密度が支配的と考えています。また、入力電圧オフセットの温度ドリフトおよび温度上昇に影響する消費電流も変動要素として支配的と考えています。

結論として、これら8つのオペアンプで音質的に大きな変化がある回路ではないですが、それでも実際の聴感で判別できる程度の差異はあります。

傾向と特徴をあげておきます。

  1. オープンループゲインの増大に伴い、音の躍動感が増す。(LM4562, MUSES8920, LT1213)
  2. 電圧ノイズ密度の減少に伴い、音の奥行き感が増す。(ADA4075-2)
  3. GB積の大きなオペアンプで、最終的な電圧オフセットが大きくなるものがある。(LT1213, NJM2068)

電流モード自励発振式D級アンプとUCD

電流モード自励発振式D級アンプについてまとめておきます。

こちらを参考にしています。

グリーン・エレクトロニクス No.7 D級パワー・アンプの回路設計

最初の自作!Hypex Ucdパワーアンプ

LT1713/LT1714

ヒステリシスを用いた構成例

Differential amplifier

まず、2つの方式のLTspiceでのシミュレーションをあげておきます。

電流モード自励発振式D級アンプの回路図

電流モード自励発振式の回路をオペアンプ(LT1213)と電流検出アンプ(LT1995), コンパレータ(LT1713), ゲートドライバ(Si8244)で構成しています。LPFのインダクタが積分器(電圧を時間で積分すると電流)となっています。電流検出アンプのゲインとコンパレータのヒステリシスので自励発信周波数が調整可能です。差動アンプによる比例制御と積分回路による積分制御で二重の制御ループになっています。

電流モード自励発振式D級アンプの無信号入力時のFFT

積分回路でノイズシェーピングを掛けています。自励発振周波数は1.3MHzです。

電流モード自励発振式D級アンプの1V 10kHz正弦波入力時のFFT

ゲインは23dBとなります。

UCDの回路図

UCDのLTP(差動増幅回路)によるディスクリートの回路図です。LPFのインダクタの出力電圧に位相補償を掛けて、LTPにフィードバックしています。LTPで入力とLPFインダクタ出力の三角波を差動合成して得た矩形波で直接MOSFETを駆動しています。

UCDの無信号入力時のFFT

自励発振周波数は347kHzとなっています。

UCDの1V 10kHz正弦波入力時のFFT

ゲインは19dBとなっています。

D級アンプの場合、入力信号を線形増幅していない(積分回路で時間情報に変換(サンプリング)して、PWMで出力を合成している)ので、オーディオ用途の場合、オペアンプの特性としてはDCゲインと出力オフセットが支配的になります。

また、LPFのインダクタの電流検出を利用すれば、位相遅れ自体は一次系となるため、出力電圧の周波数特性の制御は比較的容易です。

AB級アンプとは必要な要素技術が大きく異なる(増幅回路というよりもアナログ・サンプリングとPWMによる制御付き電源回路)ところに注意が必要です。

MOSFETの寄生発振条件

MOSFETの寄生発振条件をまとめておきます。

こちらのアプリケーションノートが参考になります。

パワーMOSFET 寄生発振、振動

例として次の2つのMOSFETを取り上げます。

IRF200B211

IRFP250N

まず、アプリケーションノートの図2.21を引用しておきます。

寄生発振等価回路

アプリケーションノートの式(12)が発振条件で、

gm >= (Cgs/Cds)/R3

となって、R3(ドレイン・ソース間等価抵抗)はRg(ゲート抵抗)に反比例となっています。

具体的な数値例を挙げておきます。

IRF200B21: gfs=13S, Ciss=790pF, Coss=62pF, Crss=21pF

gm=gfs=13, Cgs/Cds=(Ciss-Crss)/(Coss-Crss)=(790-62)/(62-21)=18.8

IRFP250N: gfs=17S, Ciss=2159p, Coss=315p, Crss=83p,

gm=17, Cgs/Cds=(2159-83)/(315-83)=8.95

となって、仮にR3=1Ωとした場合、IRF200B21は発振条件を満たしませんが、IRFP250Nは発振条件を満たすことがわかります。

実際のD級アンプの設計では、ゲート抵抗の値とデッドタイムは出力LPFのインダクタに依存するため、発振しない十分大きなゲート抵抗値でデッドタイムを決定する形になります。

IRF200B211によるD級アンプの試作

IRF200B211によるD級アンプ

IRF200B211によるD級アンプを施策しました。

設計のポイントなどをまとめておきます。

電圧モードの自励発振でPSRRを向上、電流モードのフィードバックで周波数特性を改善、バランス入力とCMCフィルタによる出力でCMRRを向上させています。

なお、アバランシェ耐量に関しては、こちらのリンクが参考になります。

半導体(8)―― MOSFETのアバランシェ耐量の使い方(I)

半導体(9)―― MOSFETのアバランシェ耐量の使い方(II)

D級アンプのスイッチング素子としては、スイッチング時のスパイク(dv/dt, di/dt)が小さいことが大事になります。特性値としてはQgとQrrが小さいものが一つの目安になります。

積分回路(2次CRハイパス・フィルタ)の定数としては、C1=1000p, R1=3.3k, C2=1000p, R2=10T(FETオペアンプの入力抵抗)として、セカンドポールを48kHzに設定しています。

DCリンクの定数としては、1000p, 0Ωとしています。

スイッチングノードのスナバ回路は除去して、出力のZobelフィルタもCMCフィルタで置き換えています。

音の方ですが、PFC+LLCのコモンモードノイズの影響を排除して、高能率のスピーカーでも無音時のノイズは聞こえません。対策前の状況とは大違いです。

CHR70のバスレフで評価していますが、キックの太さからシンバルのアタックまでかなりよい感じです。ベースラインも明瞭に聞き取れます。

ヒートシンクも冷たいままで、アイドル時の損失は1W程度なので省エネです。

LT1166による3段ダーリントンBJTアンプの最適バイアス抵抗

2N5551, 2N5401, TTC004B, TTA004B, TTC5200, TTA1943を用いた、LT1166による3段ダーリントン(Triple)BJTアンプの最適バイアス抵抗をまとめておきます。

こちらのリンクが参考になります。

良く使われる回路での高域特性限界: 4、フォロワ型アンプ出力段 (ダーリントンの有無)

3段ダーリントンBJTアンプの回路図

まず、LTSpiceによる回路図をしめします。結論としては、プリドライバ段のエミッタ抵抗を680Ω(3.3mA)、ドライバ段のエミッタ抵抗を47Ω(12mA)、パワー段のエミッタ抵抗を0.22Ω(91mA)としています。

ドライバ段の値はパワー段を最大入力時に必要なベース電流(hfe=100)から決まってきます。

問題はプリドライバ段の最適値で、こちらは(R21={470, 680, 1k})として、シミュレーションで決定しています。アイドル時の出力点(D)の電圧のFFTを示します。

アイドル時の出力電圧の周波数特性

緑: 470, 青: 680, 赤: 1kですが、青は振動が収まっています。LT1166のゲイン交点は1.2MHz程度ですが、DC安定度にかなり影響が出ます。

実際、バイアス電流が不足すると4kHz程度にうなり(耳障りな発振音)が発生します。

LT1166による3段ダーリントンBJTアンプの位相補償

2N5551, 2N5401, TTC004B, TTA004B, TTC5200, TTA1943を用いた、LT1166による3段ダーリントン(Triple)BJTアンプの位相補償をまとめておきます。

こちらのリンクが参考になります。

良く使われる回路での高域特性限界: 4、フォロワ型アンプ出力段 (ダーリントンの有無)

3段ダーリントンBJTアンプの回路図

まず、LTSpiceによる回路図をしめします。プリドライバ段のエミッタ抵抗を1kΩ(2.5mA)、ドライバ段のエミッタ抵抗を100Ω(12mA)、パワー段のエミッタ抵抗を0.22Ω(91mA)としています。

LT1166でパワー段のアイドル電流は制御していますが、プリドライバ段とドライバ段のアイドル電流で動作点が変わるようです。

プリドライバ段、ドライバ段、パワー段のアイドル電流

さらに、位相補償として、R24(U2: フィードフォワードのフィードバック抵抗)を5.1kΩ、R5(U3: カレントソースドライブのフィードバック抵抗)を1.8kΩとしています。

電圧増幅(A), フィードフォワード(B), カレントソースドライブ(C), 出力(D)のゲイン位相図

1MHz-30MHzの直線性が改善しています。

また、寄生インダクタンスの影響を低減するため、プリドライバ段、ドライバ段、出力段はPCB上で、できるだけ近くに配置することが必要なようです。