D級GaN MOSFETアンプの積分器の設計方法をまとめておきます。
まず、Application Note AN-1138 IRS2092(S) Functional Description
から自励発振周波数に関する部分を引用します。

Self-Oscillating Frequency
Self oscillating frequency is determined mainly
by the following items in Figure 2.
· Integration capacitors, C1 and C2
· Integration resistor, R1
· Propagation delay in the gate driver
· Feedback resistor, RFB
· Duty cycle
Self oscillating frequency has little influences
from bus voltage and input resistance RIN.
Note that as is the nature of a self-oscillating
PWM, the switching frequency decreases as
PWM modulation deviates from idling.
これによると、自励発振周波数は、
積分器(LT1363)のCR定数だけでなく、
ゲートドライバ(IR2110)のプロパゲーションディレイ(最大150ns程度)と
フィードバック抵抗(入力抵抗との比率でゲインが決まる)
にも依存します。
また、デューティサイクルに応じて
自励発振周波数がPWMの変調に応じて
アイドル時から大きく変わるのは、
自励発振式D級アンプの特徴です。
実際の積分器は理想積分器ではないので、
+-5V電源でのLT1363のアウトプットスイング(+-3.4V)が制約になります。
LT1016のコモンモードレンジ(-3.75V~+3.5V)は越えない範囲です。
これらの条件を考慮して、
最大入力(最大出力)でも積分器の出力が
アウトプットスイングの範囲に収まるように定数を決定しました。
実際の回路図はこちらです。

LTspiceによる過渡応答(20KHz, 1V正弦波入力)はこちらです。

青が積分器(LT1363)の出力でコンパレータ(LT1016)をドライブしています。
緑は積分器の入力です。
赤はD級アンプの出力です。
アイドル時の積分器の振幅は+-2.2Vで、
入力に応じてアウトプットスイング(+-3.4V)の範囲を移動することがわかります。
理想的には三角波ですが、
アウトプットスイングが壁になる形で、
波形が歪むことがわかります。
シミュレーションでのアイドル時の自励発振周波数は895kHzで、
左右のチャネルでビートを回避するために、
もう一方は積分抵抗を1.2kΩ(933kHz)としています。
試作機のアイドル時の自励発振周波数の実測値は
710kHz(1kΩ), 718kHz(1.2kΩ)となっていますが、
電源の干渉によるビートは発生しないようです。