準コンプリメンタリSEPPとハーフブリッジ回路

シングルエンド・プッシュプル回路のトップとボトム両方にn-ch MOSFETを用いる構成を、

オーディオでは準コンプリメンタリと呼んでいますが、

パワーエレクトロニクスではハーフブリッジと呼んでいます。

 

ということは、
オーディオパワーアンプは、

可聴帯域信号による線形制御のDC/ACコンバーターになります。

実際、20kHZの矩形波応答での動作は、スイッチング動作そのものです。

 

また、ハーフブリッジ回路ではハイサイドとボトムサイドの動作に対して、

それぞれ独立した非対称の制御をすることもあります。

 

一方で、GaN MOSFETアンプの上下の出力電流のゲイン・位相特性の非対称性は、

スナバ回路を独立に設定すれば軽減できそうです。

(赤:出力電圧, 青:トップのMOSFETの出力電流, 緑: ボトムのMOSFETの出力電流)

 

そこで、トップとボトムのスナバ回路設計のための測定をそれぞれ行ったところ、
異なる寄生容量と寄生インダクタンスが測定されました。

最終的なスナバ回路の定数を以下にしめします。
Top: Rs: 180Ω, Cs: 56pF, Fc: 15.8MHz
Bottom: Rs: 470Ω, Cs: 22pF, Fc: 15.4MHz

この結果、
ゲートストッパーは47Ωまで下げられ、THD-20も下がりました。

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ゲートゾーベルとスナバ回路の設計

ゲートゾーベルはゲートとドレイン間のスナバ回路なので、
スナバ回路の設計をいろいろ検索してみたところ、
アプリケーションノートがたくさん見つかりました。

AN11160 Designing RC snubbers
Switcher Efficiency & Snubber Design
AN-4147 Design Guidelines for RCD Snubber of Flyback Converters
アプリケーションノート3835 CCFLプッシュ/プルスナバ回路
パワースイッチ向けの抵抗器-コンデンサ(RC)スナバ設計
高速DC/DCコンバータのスイッチノードで発生するリンギングの抑制 Part 3/4

AN11160によると、

まず共振周波数を測定し、

次に寄生容量を測定して、

寄生インダクタンスを計算します。

あとは臨界制動になるようにスナバ回路の

容量値と抵抗値を決めれば良いようです。

ゲートストッパーとトップおよびボトムのゲートゾーベルが干渉するので、

一度、ゲートストッパーとゲートゾーベルを取り除いてから、

20kHzの矩形波応答で測定を行いました。

また、容量を追加して発振周波数を測定するときは、

トップまたはボトムのMOSFETそれぞれ独立に容量を追加して測定した方が良いようです。

 

かなり試行錯誤が必要ですが、

シミュレーションで測定したところ以下の値を得ました。
共振周波数(fring0): 16.4MHz
10pF(Cadd)を追加した時の共振周波数(fring1): 14.1MHz
寄生容量(Clk): 28.5pF
寄生インダクタンス(Llk): 3.30uH

スナバ抵抗(Rs):170Ω -> 180Ω

スナバ容量(Cs):57pF -> 56pF

ゲートストッパーは68Ωでよいようです。

 

以前のルールオブサムのゲートゾーベルの値(Rs=47Ω, Cs=100pF, Fc=33.9MHz)にくらべて、

シミュレーションによる理論値(Rs=180Ω, Cs=56pF, Fc=15.8MHz)は、

カットオフ周波数(Fc)がおよそ半分になっているので、

ゲートストッパーが100Ωから68Ωで済むため、

GaN MOSFETをより高速でドライブできるようです。

 

Gate Zobelの最適化

GaN MOSFETアンプのトップとボトムの出力電流のボーデ線図が揃わない

原因をいろいろ追求していたところ、

どうやらゲートゾーベルが影響しているようです。

左が最適化前(100pF/100pF)、

右が最適化後(82pF/8pF)の、

トップ(緑:I(R20))・ボトム(青I(R21))出力電流の

ゲイン(実線:左目盛り)と位相(破線:右目盛り)です。

 

最適化前は、トップの電流の位相が200kHzで反転していて、

ゲインも深いディップになっています。
また、ボトムの電流の位相とゲインも200kHzで急激にロールオフしていて、

あまり余裕がありません。

 

最適化後は、トップとボトムの位相とゲインが共になだらかになって、

ボトムも4MHz程度まで位相余裕が伸びています。

 

8Ω負荷時のTHD-20は、

0.002306%から0.002197%に改善しました。

理想ダイオードブリッジコントローラの保護回路(TVS)

LT4320のデータシートを読んでいて、以下の文章が気になりました。

トランジェント電圧サプレッサ
LT4320の絶対最大定格を超える短い過電圧イベントが発生する可能性があるアプリケーションでは、
LT4320のできるだけ近くに、
OUTPピンとOUTNピンの間に単方向トランジェント電圧サプレッサ(TVS)を取り付けてください。

次にTVSの選択方法を調べていく中で、
スタンドオフ電圧、ブレークダウン電圧、クランプ電圧の関係が
よくわからなかったので以下のサイトを参考に、
シミュレーションをしてみました。

サージ・サプレッサの特性

TVSとしてSTMのTRANSIL 1.5KE56AのSPICEモデルを選択して、
8/20usの指数関数パルスをピーク電圧350V,500V,750V,1KVをそれぞれ
ソースインピーダンス4Ωで印加しています。

ブレークダウン電圧56Vでクランプが始まりますが、

ピークパルス電圧に応じて、

クランプ電圧が66Vまで、

ピークパルス電流が22A、

電力損失が1.4KWまで

それぞれ上昇していくことがわかります。

 

オーディオアンプ用の正負電源の場合
定常電圧は45Vなので、
スタンドオフ電圧はこれよりも大きくないとTVSが誤作動してしまいます。

一方、LT4320のOUTPの最大電圧は72Vなので、
TVSのブレークダウン電圧とクランプ電圧がこれよりも小さくないと保護できません。

また、TVSのピークパルス電力損失Pppは想定されるサージを吸収できることが必要です。

結論としては、1.5KE56A(最大損失1500W, ブレークダウン電圧56V)でよいようです。