なぜGaN MOSFETアンプなのか?
新しいデバイスだから。
特性がよいから。
というのが主な設計上の動機になっていますが、
実際のところどうなのか
データシートの値とシミュレーションによるTHDで比較してみました。
SiC MOSFETとして、C3M0065090D、
GaN MOSFETとして、TPH3205WSBを選択し、
パワー段のMOSFET以外は同じ回路でシミュレーションしています。
まず、データシートからオーディオパワーアンプの特性に関連するパラメータを抜き出してみます。
C3M0065090D:
Vds 900V, Id 36A, Rds(on) 65mΩ, Qg 30.4nC, Ciss 660pF, Td(on) 35ns, Td(off) 23ns
TPH3205WSB:
Vds 650V, Id 34.7A, Rds(on) 63mΩ, Qg 28nC, Ciss 2200pF, Td(on) 22ns, Td(off) 33ns
Ciss以外の値はほぼ互角です。
実際の設計ではGate ZobelでダンプしてCissの影響を低減しています。
次にシミュレーションによるTHD-20(1V, 20KHz Sine Wave)を示します。
C3M0065090D:
THD-20 0.034245%
TPH3205WSB:
THD-20 0.005785%
GaN MOSFETの全高調波歪率(THD-20)は、 SiC MOSFETのおよそ1/6となっています。
これはGaN MOSFETのトランスコンダクタンスの立ち上がりが、
SiC MOSFETよりも圧倒的に大きいことに起因するようです。
これまで、MOSFETアンプはBJTアンプに比べて、
トランスコンダクタンスの立ち上がりの遅さ(Transconductance Droop)による
クロスオーバ歪み(Crossover Distortion)がデメリットとされてきましたが、
GaN MOSFETアンプには当てはまらないようです。