理想ダイオード電源用MOSFETの選定

オーディオアンプに利用するために、
TO-247パッケージでVdsが50V以上のMOSFETから
低オン抵抗で入力容量が小さくSOAが十分広いものを探すと、
FairchildのUltraFETかPowerTrenchのシリーズが見つかります。

どちらのシリーズも同期整流に使えるのですが、
UltraFETがDC/DC用(スイッチングレギュレータの周波数:100-400kHzが中心)で、
PowerTrenchがAC/DC用(商用電源の周波数:50/60Hz)といった感じのようです。

なので、理想ダイオード正負電源には、
FDH5500_F085(N-ch UltraFET Power MOSFET, 55V, 75A, 7mΩ)
FDH038AN08A1(N-ch PowerTrench MOSFET, 75V, 80A, 3.8mΩ)
が良さそうですが、
GaN MOSFETアンプでは、FDH038AN08A1を採用します。

一方で、UHC MOSFETアンプのパワー段には、
HUF75639G3(N-Channel UltraFET Power MOSFET 100 V, 56 A, 25 mΩ)
を採用します。(オーディオアンプのパワー段は0dB@1MHz程度)

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GaN MOSFETアンプの性能

LT1166のデータシート Figure7. Current Source Driveの、

currentsourcedrive_bipolarbufferamp
RIN, RL, RF, CFのGaN MOSFETアンプにおける
最適値を探したところ、
RIN=2.4kΩ, RL=150Ω, RF=0Ω, CF=100pFとなりました。

具体的には、I/V変換をしているオペアンプ(U3: LT1360)の

電源ピン電流のゲインと位相が

できるだけなだらかになるようにすることがポイントのようです。

オペアンプの出力(C点)の位相余裕とゲイン余裕を大きくすることと、

THD-20を小さくすることを目標にすると、

電流変調の位相とゲインがピークやディップを持ってもわかりにくいようです。

 

これまでの結果として、
GaN MOSFETアンプのシミュレーション上の
特性値を上げておきます。

周波数特性:10-55kHz(-3dB)
歪率(THD-20, 入力:2Vpp, 20kHz正弦波):
8Ω,  55W, 0.002243%
4Ω, 110W, 0.004343%
2Ω, 219W, 0.006039%

最低インピーダンスが3Ωになるようなスピーカーでも、
余裕を持って鳴らせる値になっています。

(※実際の周波数特性はDCが下限。

実際の最大出力はTPH3205WSBのPD=125Wが上限。)

 

歪率自体もLT1166のデータシート
Figure 19. 100W Audio Amplifier

100waudioamplifier

(U2: LT1363のピン番号2, 3が入れ違っているので注意して下さい)
ドライバ段のないIRF530, IRF9530による
純コンプリメンタリの構成(0.005084%)よりも、

BJTによるドライバ段(2SC4883A, 2SA1859A)

(LT1166データシート Figure 8. Bipolar Buffer Ampを参照)と

GaN MOSFET(TPH3205WSB)による

準コンプリメンタリのパワー段による構成(0.002243%)

の方がよい値になっています。

 

設計目標は十分、達成しているので、試作に入りたいと思います。

 

GaN MOSFETアンプの発振対策 その2

LT1166のデータシートとLT1360のデータシートを読んでいて、

いくつか気が付いた点を上げておきます。

 

回路の残りの部分(A点からD点)は、
超低歪みのユニティ・ゲイン・バッファになります。

ユニティ・ゲイン・バッファの主要部品はU4(LT1166)です。
このコントローラには2つの重要な機能があります。
すなわち、R20とR21の電圧積を一定に維持しながら、
M1とM2のゲート間のDC電圧を変化させること。
そして、電流制限を行って、
短絡時にM1とM2を保護することです。

U3の役割は、M1とM2のゲートをドライブすることです。
このアンプの実際の出力は、
一見したところ考えられる点Cではなく電源ピンです。
R6を流れる電流を使用して電源電流を変調し、
VTOPおよびVBOTTOMをドライブします。

U3の出力インピーダンス(電源ピンを通した)は非常に高いため、
20kHzでの歪みを非常に低く抑えるのに必要な速度と精度で
M1およびM2の容量性入力をドライブすることはできません。

U2の目的は、低出力インピーダンスを通して、
M1およびM2のゲート容量をドライブし、
M1およびM2の相互コンダクタンスの非直線性を低減することです。

R24とC4は、U2がU3とU4を管理しなくなるが、
利得が1になると自身を管理するような周波数よりも
高い周波数を設定します。

The parallel combination of the feedback resistor and gain
setting resistor on the inverting input can combine with
the input capacitance to form a pole which can cause
peaking or oscillations. For feedback resistors greater
than 5kΩ, a parallel capacitor of value
CF > RG x CIN/RF
should be used to cancel the input pole and optimize
dynamic performance. For unity-gain applications where
a large feedback resistor is used, CF should be greater
than or equal to CIN.

Coaxial cable can be driven directly, but for best
pulse fidelity a resistor of value equal to the characteristic
impedance of the cable (i.e., 75Ω) should be placed in
series with the output. The other end of the cable should
be terminated with the same value resistor to ground.

The slew rate is determined by the current available to
charge the gain node capacitance. This current is the
differential input voltage divided by R1, so the slew rate is
proportional to the input. Highest slew rates are therefore
seen in the lowest gain configurations. For example, a 10V
output step in a gain of 10 has only a 1V input step,
whereas the same output step in unity gain has a 10 times
greater input step. The curve of Slew Rate vs Input Level
illustrates this relationship. The LT1360 is tested for slew
rate in a gain of –2 so higher slew rates can be expected
in gains of 1 and –1, and lower slew rates in higher gain
configurations.

The LT1360 can be used in all traditional op amp
configurations including integrators and applications such
as photodiode amplifiers and I-to-V converters where
there may be significant capacitance on the inverting
input.

まず、U3はI/V変換で電源ピンを通じて、
BJTのダーリントンドライバを経由してゲートをドライブしていますが、
もともとのLT1166のデータシートの回路では、
ゲインを持たせる構成のために、
ゲイン余裕と位相余裕が取れなくなってしまいます。

そこで、RF=RG=1kΩ、CF=10pFのユニティゲイン構成にしたところ、
周波数特性が改善してゲイン余裕と位相余裕が確保できました。

次に、U2(LT1363)は、もともと33Ωの出力抵抗で
ゲート容量をドライブしていますが、
出力段のゲートストッパーの値に合わせて100Ωにしたところ、
ドライブ電流のピークが下がって歪率が改善しました。

また、エミッタディジェネレーションの抵抗値を100Ωから47Ωに変更し、

バイアス電流を増やしてターンオフの追従性を高めました。

 

これらの結果として、2Ω負荷でもドライブできるようです。

2ohmloaddrive

SiC MOSFETアンプとGaN MOSFETアンプの比較

なぜGaN MOSFETアンプなのか?

新しいデバイスだから。
特性がよいから。

というのが主な設計上の動機になっていますが、

実際のところどうなのか

データシートの値とシミュレーションによるTHDで比較してみました。

 

SiC MOSFETとして、C3M0065090D、
GaN MOSFETとして、TPH3205WSBを選択し、
パワー段のMOSFET以外は同じ回路でシミュレーションしています。

 

まず、データシートからオーディオパワーアンプの特性に関連するパラメータを抜き出してみます。

C3M0065090D:
Vds 900V, Id 36A, Rds(on) 65mΩ, Qg 30.4nC, Ciss 660pF, Td(on) 35ns, Td(off) 23ns

TPH3205WSB:
Vds 650V, Id 34.7A, Rds(on) 63mΩ, Qg 28nC, Ciss 2200pF, Td(on) 22ns, Td(off) 33ns

 

Ciss以外の値はほぼ互角です。

実際の設計ではGate ZobelでダンプしてCissの影響を低減しています。

 

次にシミュレーションによるTHD-20(1V, 20KHz Sine Wave)を示します。

C3M0065090D:

THD-20 0.034245%

TPH3205WSB:

THD-20 0.005785%

 

GaN MOSFETの全高調波歪率(THD-20)は、 SiC MOSFETのおよそ1/6となっています。

 

これはGaN MOSFETのトランスコンダクタンスの立ち上がりが、

SiC MOSFETよりも圧倒的に大きいことに起因するようです。

 

これまで、MOSFETアンプはBJTアンプに比べて、

トランスコンダクタンスの立ち上がりの遅さ(Transconductance Droop)による

クロスオーバ歪み(Crossover Distortion)がデメリットとされてきましたが、

GaN MOSFETアンプには当てはまらないようです。

 

GaN MOSFETアンプの発振対策

GaN MOSFETアンプの設計で、

SPICEシミュレーションを用いて、

ganampascgz

周波数応答、

ganamp_fr

矩形波応答、

ganamp_pr

静止バイアス電流、

正弦波応答を観察しながら

パラメータを詰めた結果をまとめておきます。

 

まず、GaN MOSFET(TPH3205B)に限らず、

入力容量が1000pFを越えるようなMOSFETをパワー段に用いると

ゲート電圧に寄生発振が起きるのが普通です。

 

今回は47Ω+100pFのゲートゾーベル(Gate Zobel)をゲートとドレイン間に設定して

100Ωのゲートストッパーでも抑制できない寄生発振を抑えています。

 

また、オペアンプ(LT1360)のI/V変換により電源ピンでゲートをドライブしていますが、

ゲイン余裕と位相余裕を得るためにフィードバック抵抗の値を3.3KΩから1.5KΩに下げています。

この値でも、1V, 20KHzの正弦波でのTHDが0.0058%となっています。

 

もちろん、基本的な対策として、

ドライバ段のBJT(2SC4883A, 2SA1859A)のベースストッパー(33Ω)と

パワー段のMOSFETのゲートストッパー(100Ω)は、最初から入れてあります。

 

一方、自動バイアス(LT1166)の

バイアス電流の検出抵抗値(0.1Ω+0.1Ω)と

電流制限の検出抵抗値(0.1Ω)を個別に設定し、

パワー段のMOSFETの

静止バイアス電流が100mA、

電流制限が13Aに設定しています。

 

また、ドライバ段の静止バイアス電流は、

100Ωのコレクタ抵抗と100Ωのエミッタ抵抗による

エミッタディジェネレーションで、27mAになっています。

MOSFETを高速でターンオフするためには、

ゲート容量を短時間で抜く必要がありますが、

その時間はこのドライバ段の静止バイアス電流で決まります。

 

駆動能力の確認として、

スピーカー相当の抵抗負荷を8Ωから2Ωまで下げてみても、

大きな貫通電流は生じず、1Ωから0Ωにした場合でも

ゲート電圧が18Vを越えないのでロバスト性も十分なようです。