コンプリメンタリ回路に限らず、
バランス回路、差動回路など、
オーディオアンプ回路の設計で、
対称性という言葉がよくでてきます。
でも対称性が良いからといって、
音が良いということになるでしょうか?
回路図はあくまでも電気回路としてのトポロジーと
基本的な回路定数を記述しているだけです。
つまり、モデルとしての記述であって、
実際の回路動作を構成する
デバイスの特性や定数とは常にズレがあります。
もちろん、基本的に対称性のある回路の方が、
歪率など一部の特性には明らかな好影響はあります。
しかし、もちろん限界があります。
つまり、いくら回路の対称性を向上しても、
正弦波入力に対する歪率ゼロなどの
理想的な特性は実現できません。
例えば、コンプリメンタリーなBJTでも、
NPNとPNPでは、物理的な振る舞いが違うので、
デバイスの特性までは対称にならないからです。
また、バランス回路や差動回路では、
抵抗の比率が正確に一致することが必要ですが、
抵抗には高精度の抵抗でも許容誤差があります。
同様に、コンデンサには、抵抗よりも大きな誤差があります。
回路の引き回しまで含めると、
実際のデバイスのピン配置だと、
3次元空間では、どうやっても対称にならない場合もあります。
また、バランス回路やBTLなど、
対称性を導入するために回路規模が2倍になる構成は、
対称性の構成要素自身のマッチングを取ることとの
トレードオフになります。
アンプの外側に目を向けると、
音楽信号もスピーカーの周波数特性も
部屋の残響も人間の聴覚も、
非線形で非対称な要素ばかりです。
なので、対称か非対称かに関わらず、
どのメリットを取るのか、
捨てるのかというのが設計としては、
一番重要な判断になります。